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17年ぶりの分厚い驚き

いやあ、正直な話、本当に出るとはもう思っていなかったので、すごくびっくりしました。 何がって、京極夏彦著『鵼の碑』。 氏の「百鬼夜行」シリーズの、17年ぶりの本編、長編小説。 数日前、9月14日の木曜日。書店に入った私の目の前で、平台に山積みにな…

お久しぶりの猫村さん

ひと月近く前のことになるが、ほしよりこ著『きょうの猫村さん』最新第10巻が発売された。 前巻の発売から実に7年ぶりの最新刊である。 それまで平均するとほぼ1年半に一冊のペースで新刊を出し続けていたのが、ここにきて7年も間が空いてしまったのには…

大いなる円環

遥かな未来のことだと、ずっと思っていた。 あの「お願い だれも息をしないで」。 そこに、ようやくたどり着いた。 物語の大いなる円環が、今ひとつに繋がった。 末次由紀著『ちはやふる』の最新第49巻を読んだ。周知の通り次の第50巻で完結が予定されており…

「倍速視聴」はしないけれども

稲田豊史著『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)をこの日、読了。 サブタイトルは「ファスト映画・ネタバレ--コンテンツ消費の現在形」。非常に話題になっている一冊だ。私も新聞の新刊広告でこの本の存在を知って以来とても他人事とは思えず、すご…

ボルシチはウクライナの郷土料理

先月末のことだが、我が家の夕食の食卓に、私の妻が作ったボルシチが登場した(上の写真)。 栄養士の資格を持つ妻が地域の栄養士のヴォランティア団体に長らく参加していることは、以前にも書いた。そこでの活動の一環として、妻は月に一度、退職した人を中…

栄一巡りは続く

渋沢栄一の生涯を描くNHK大河ドラマ「青天を衝け」が昨年末に最終回を迎えてから、丸3か月が経った。私たちが最終回の録画を観たのは年が改まってからの1月5日だったが、それから数えても早3か月近い。 ではあるが、2022年1月5日の日記に書いた通り…

物語ることの豊かさ

濱口竜介監督、西島秀俊主演の話題の映画『ドライブ・マイ・カー』を、我が家から比較的近い、街の映画館「下高井戸シネマ」にて観た。 dmc.bitters.co.jp 下高井戸シネマの上演作品のラインナップは週替わりが基本で、話題の作品でもせいぜい2週間程度しか…

紙の本の「効用」

朝日新聞の毎週木曜日夕刊に掲載されている脚本家・三谷幸喜氏のコラム「三谷幸喜のありふれた生活」。毎週楽しみにして欠かさず読んでいるのだが、先日(12月2日)のエッセイ(第1064回)に、思わず我が意を得たりと膝を打った。 前週のコラムでは三谷氏は…

中世は「暗黒」ではない

引っ越しを目前に控えたバタバタのせいでなかなか読み進まないが、ウィンストン・ブラック著『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』(大貫俊夫監訳、平凡社)を少しずつ読んでいる。 中世ヨーロッパ: ファクトとフィクション 作者:ウィンストン・ブラッ…

紡がれた言葉は、永遠に。

児童文学者・翻訳家の神宮輝夫氏の訃報に接する。 享年89歳とのこと。 今はただ、逝きし魂の安らかなる平安を願うのみだ。 www.asahi.com 神宮輝夫さんの代表的な訳業としてよく挙げられるのは、『ツバメ号とアマゾン号』をはじめとするアーサー・ランサムAr…

過去の人々にも「違う靴」を。

佐藤信編『古代史講義 邪馬台国から平安時代まで』(ちくま新書)を読了。現在第4弾まで出ている、ちくま新書の大人気「古代史講義」シリーズの記念すべき第1集を、ようやく読むことができた。 古代史講義 ──邪馬台国から平安時代まで (ちくま新書) 筑摩書…

現代的な大家族の肖像

今年の5月28日に、小路幸也著『アンド・アイ・ラブ・ハー』を読了。読了してからずいぶん間が空いてしまったので、読了記録とは別の投稿として、少々思うところを書くことにしよう。 アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン (集英社文庫) 作者:小路幸也…

【読了記録】物語ることの豊穣

朝井まかて著『雲上雲下』を、この日読了。この著者の小説は初読だった。 朝井まかて氏は時代劇専門の小説家というイメージがあって、正直今まであまり興味が湧かなかったのだが、この作品は民話(昔話)と物語ることにまつわるファンタジー小説だと聞き、フ…

血縁絶対主義者よ、地獄に墜ちよ

昨年急逝した直木賞作家・藤田宜永氏の小説『愛さずにはいられない』を読了。著者の唯一の自伝的小説といわれる、原稿用紙千三百枚の大長編だ。その長さにもかかわらず、文章自体はとても読みやすく、生き生きとした会話や臨場感溢れる場面展開の妙に引き込…

【読了記録】下町の古書店の物語

小路幸也著『アンド・アイ・ラブ・ハー』(集英社文庫)を読了。 東京下町の古書店を舞台にした人気大家族小説「東京バンドワゴン」シリーズの第14作(本篇だけなら第11作)である。 アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン (集英社文庫) 作者:小路幸也 …

朝ごはんにハムエッグ

この頃は、武田百合子の有名な『富士日記』を、ことの合間を見てはつらつらと読み進めている。 富士日記(上) 新版 (中公文庫 (た15-10)) 作者:武田 百合子 発売日: 2019/05/23 メディア: 文庫 小説家・武田泰淳の妻だった著者が、富士山麓で夫と過ごした13年…

さらに、夏の終わり。

まさに今、この国は、いろいろな意味での「夏の終わり」に差し掛かっているようだ。 そのことを改めて認識する、この頃である。 2020年9月7日の日記に書いた経緯で、予定から一週延期で本日放映された大河ドラマ「麒麟がくる」第23話を観たときのこと。 ド…

この国の「夏」の終わり

この国の「夏」は、確かに終わろうとしていた。白いワンピースと麦わら帽子の少女の姿は、間違いなくこの国が常に上向きで、「暑かった」時代をノスタルジックに象徴しているのだろう。 先日読了した、恩田陸氏の最新長編小説『スキマワラシ』。8月28日の日…

【読了記録】あの夏の記憶

(写真は2020年8月27日に、渋谷にて撮影。使用カメラはCANON EOS Kiss M) 恩田陸氏の最新長編小説『スキマワラシ』を読了。 買ったときから「この本は夏が終わらないうちに読まないと」と半ば直感的に思い、他の順番待ちの「積ん読」をすっ飛ばしてすぐに…

皇帝という「役職」

中谷功治著『ビザンツ帝国 千年の興亡と皇帝たち』(中公新書)を本日読了。大変興味深い一冊だった。 ビザンツ帝国-千年の興亡と皇帝たち (中公新書) 作者:中谷 功治 発売日: 2020/06/22 メディア: 新書 大学時代に西洋美術史、特に中世ヨーロッパの歴史と…

長いお休みの果てに

つい先日のことだが、古書店にて、岩波書店の愛蔵版『アーサー・ランサム全集』全12巻を入手した。 アーサー・ランサム全集 全12巻 作者:アーサー・ランサム 発売日: 2005/01/21 メディア: 大型本 六人の探偵たち (アーサー・ランサム全集 (9)) 作者:アーサ…

【映画記録】装幀者の姿

下高井戸シネマにて、映画『つつんで、ひらいて』(2019年)を観る。新型コロナウイルス禍による営業自粛などの影響もあって、映画館で映画を観るのはほぼ4か月ぶり。やはり映画館で、大きなスクリーンと本格的な音響設備のもとで映画を鑑賞するのは、本当…

【読了記録】芸術人類学とは

(写真は2014年7月19日に、アイルランド・ダブリンの国立考古学・歴史博物館(National Museum of Ireland Archaeology & History)にて撮影) 鶴岡真弓編『芸術人類学講義』(ちくま新書)を、この日に読了した。 芸術人類学講義 (ちくま新書) 発売日: 2020/…

「サステナブル」なアートの在り方

6月16日に、木場にある東京都現代美術館に行き、企画展「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」"Olafur Eliasson: Sometimes the river is the bridge"を観てきた。 www.mot-art-museum.jp 当初は今年の3月から開催される予定だったが、新型コロナ…

【読了記録】いつでもどこでも始められる

荒木優太編著『在野研究ビギナーズ』(明石書店)を読了。 副題は「勝手にはじめる研究生活」。大学や研究機関に属さずに研究活動や、研究支援など周辺の活動をおこなっている14人が執筆した活動の記録に、3件のインタビュー記事が収録されている。 新聞の…

【読了記録】「フィクション」と「現実」の境界

話題になっていたルシア・ベルリンの短編集『掃除婦のための手引き書』"A Manual for Cleaning Women" by Lucia Berlin(岸本佐知子訳、講談社)を読了。 掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集 作者:ルシア・ベルリン 発売日: 2019/07/09 メディア…

【読了記録】目利きになる

白洲信哉著『美を見極める力 -古美術に学ぶ』(光文社新書)を読了。 美を見極める力 古美術に学ぶ (光文社新書) 作者:白洲 信哉 発売日: 2019/12/17 メディア: 新書 父方の祖父母は白洲次郎・白洲正子夫妻で母方の祖父は小林秀雄という、まさに「日本美意…

【読了記録】美意識の値段

親不知にかなり大きい虫歯が見つかってしまい、治療できない部位なので抜くしかないということで、本日泣く泣く親不知を抜歯してきた。 今日は一日安静にしていなくてはならないので、リヴィングのソファで寛ぎながら読書に勤しんだ。 おかげで、軽めの新書…

【読了記録】文字によるアラベスク

あまりに自分の日記の更新頻度が低いので(いちいち長文になってしまうのがいけない?)、これではいつまでたっても読んだ本のことが、どんどん先送りになってしまって書けない(笑)ことに気づいた。 これではいかんと思い、これからはとりあえず気まぐれに…

困難に立ち向かう人々の物語

いわゆる新型コロナウイルス、COVID-19の感染拡大による異常事態の中で、アルベール・カミュの『ペスト』などの疫病を題材にした小説やノンフィクション本がよく読まれていると聞く。 やはり未曾有の状況下にあると、私たちは、かつて似たような状況の中で人…