歴史は作られる

 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』"Star Wars: The Force Awakens" 、ついに4度目の鑑賞。前回同様、109シネマズ二子玉川IMAX 3Dにて鑑賞。さすがにこれで最後かな。(今回もネタバレありです。ご注意ください)
 109シネマズでは、毎月22日は「夫婦の日&カップルデイ」ということで一人当たり700円も安くなるので、仕事を休んで妻と観たのだが、いやあ4回目ですよ。1999年にエピソード1『ファントム・メナス』を観たときと同じ回数に到達したよ。しかも今回は、私だけでなく妻も4回観ているわけで(笑)。
 それにしても「スター・ウォーズ」という、6本の映画作品と関連する大量のメディア作品やスピンオフとして30年以上の歳月に培われたのち、造物主ジョージ・ルーカスの手は離れたけれども正統な続編として作られた今作『フォースの覚醒』。正確には「続編」というよりは「歴史の続き」と呼ぶべきだろう。それほどまでにこの「スター・ウォーズ」の世界には一つの「歴史」が揺るぎなく形づくられており、実に多数かつ多彩な登場人物(キャストの紹介順序を見よ。誰か一人が「主人公」だと特定できようか?)が物語を彩る「群像劇」に膨れ上がっているのだから。すでに「歴史」として刻まれてしまったがゆえに、物語上・歴史上の「制約」として設定されてしまい容易に改変することができない数々の要素や、30年以上の間に積み上がったファン・観客・受け手の期待・予想・「こうあるべき」という思い込みもまた、他のいかなる(原作のない)映画でも考えられないくらいにとてつもない大きさに膨れ上がっている。それだけに『フォースの覚醒』で語られる物語は、その「歴史」を踏まえて2時間15分の画面に実に多種多様な要素が詰め込まれているのは必然である。これまで積み上がった全てを背負い込んで、さらに先へと「歴史の続き」を語らねばならないのだから。
 また、『フォースの覚醒』では、まさに現実に歴史の流れの中で起こっているのと同じく、ある時に起こった「事実」が次の時代・次の世代では神話や伝説の彼方へ埋もれてしまい、そして当の次の時代で起こった「事実」も、さらにその次の時代・世代には「伝説」としてヴェールを纏って語られてゆくということが窺えて、実に興味深い。この「神話・伝説化して曖昧になってゆく過去の事実」こそが、「スター・ウォーズ」を現実味のある「歴史」たらしめていると言っても過言ではないように思う。
 あの若者たちルークがハンが、そしてダース・ヴェイダーまでもが『フォースの覚醒』では「伝説」と化し、エピソード1ではあれほどまでに興隆し確立されたジェダイの技もフォースについての知識も、ここでは変容して(あるいは「劣化」と言ってもいいかもしれない)伝えられている。あたかも古代ギリシャ・ローマの文化がヨーロッパ中世において、あるいは途切れ途切れに、あるいは歪曲化や断片化や形式化して伝わったために、当初の姿から変容して継承され、当初の姿を誰もわからなくなってしまったのと同じように。フォースの存在を知らないフィンがライトセーバーを手にして戦っても、彼はジェダイライトセーバーを持って戦うことの意味や本質を知らないのである。またクライマックスでレイとカイロ・レンがライトセーバーを持って戦うさまも、エピソード1〜3で繰り広げられるジェダイの武芸華やかなりし頃の全盛期のライトセーバー戦に比べれば、技もなく拙いこと甚だしい。しかし、レイはもちろん、訓練を受けた経験のあるカイロ・レンでさえも、かつて全盛だった頃の「正しいジェダイの(あるいはシスの)教え」はもはや得ることができず、歴史の流れの中で歪められ断片化して伝わったやり方でしか身につけられなかったのだから仕方ない。それこそが「歴史」というものの重要な役割である。「いまに伝えられたこと」しか残らないのである。次作で披露されると予想されるルークの「教え」もまた然り、であろう。ルーク自身が体得したものそれ自体が、その本質は同じであっても、方法としては、おそらくエピソード1〜3に出てくる、システムとして確立されたジェダイの組織的教育法とは無縁に教えを受けたのだから。
 だがそれでも、ジェダイやシスの存在が歴史の彼方に完全に埋もれて消えてゆくのかどうかは、「いま」の人々がいかに伝えてゆくかにかかっているのもまた事実である。伝えられる限りは、たとえ歪められ断片化してもなお、「失われる」ことではないのだ。「存在し続ける」のだ。受け継がれた「歴史」は、新たに作られてゆかねばならないのだ。30年以上の長きにわたってひとつの世界の物語が作られ続けるということは、「歴史」を作ることに等しいのだ。
(2018年1月11日投稿。2015年12月19日の日記2015年12月27日の日記、そして2016年1月4日の日記同様、エピソード8『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』公開に際し、2年前に『フォースの覚醒』を4回観た中で感じ考察して書き留めておいたことをどうしてもブログにも記録しておきたくて、今更ながら書きました。『最後のジェダイ』は既に観ましたが、この文章の中身は当時のメモから変えていません)