この頃は、武田百合子の有名な『富士日記』を、ことの合間を見てはつらつらと読み進めている。
小説家・武田泰淳の妻だった著者が、富士山麓で夫と過ごした13年間を綴ったこの日記は、日ごとに朝・昼・晩と食べたものが事細かく書かれているのがひとつの大きな特徴だ。その中のある日の記述で、朝食の欄に「ハムエッグ」と書いてあったのを見て、無性にハムエッグを朝ごはんに食べたくなってしまった(笑)。
なので、ハムエッグを妻にリクエストしたら、今朝の朝食で作ってくれた(下の写真)。
私たちは塩胡椒をかけていただく。
なんというか、「懐かしくて美味しい」味がした。
ハムエッグというと、自分の中では、なんだか昔ながらの旅館の朝ごはんに出てきそうなイメージだ。正直いうと、実際にハムエッグを旅館の朝食で食べたというはっきりした記憶はない。が、「そんな感じ」というか、ある種の世代的な共通意識なのかもしれない。個々人の経験の有無はともかく、その世代に属する人すべてに共通する「記憶」として。
世代といえば、『富士日記』は昭和39年=1964年に始まっている。私が生まれる数年前だ。そのせいか、読むたびに、幼い頃の朧げな記憶が少しずつ呼び覚まされるような、不思議な感覚を覚えている。これが、『富士日記』の文章そのものによるものなのか、日記が描き出す当時の風物の描写によるものなのか、あるいは自分の年齢によるものなのかは、定かには分からないのだけれども。
(2020年9月23日投稿)