【映画記録】街の映画館で雨天の紐育

 半ば彼岸の淵を覗き込むような日々が続く。緊張を強いられて疲弊する一方で、鬱々とした思念ばかりが澱のように降り積もるこの十日ほど。ストレスが体調にも影響してイマイチな状態が続き、余計に鬱陶しい。

 いつ事態が急変するか知れないので翌日以降の予定が立てられず、当日思い立って観るには混みすぎる&時間がかかりすぎる大作映画(例えばすごく観たい『テネット』だとか)を、観に行くことができない日々。

 幸いなことに、私たちが住むところから自転車で気軽に行ける範囲内に「下高井戸シネマ」という街の映画館がある(下の写真)。ここならば思い立ったらすぐに行ける上に、よほどの超話題作でなければ平日は余裕でいい席で鑑賞できるのがありがたい。ラインアップもヴァラエティに富んでいて、見逃したヨーロッパ映画などもよく上映してくれるのも嬉しい。週替わりの上映なので、上映予定をチェックしていないといけないがのアレだが(笑)。もう十年以上お世話になって、この日記にもよく登場する映画館である。

下高井戸シネマ(オフィシャルサイト)

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 この日も、特に事態の変化がなさそうで外出しても大丈夫と分かり、おまけにすっきりと穏やかな青空が私たちを外へと誘う。絶好のお出かけ日和、秋晴れの好日である。今からなら間に合うと思い立ち、妻と自転車でひとっ走りして、下高井戸シネマで映画を観てきた。

 自転車で風をきって住宅街を走り抜けると、街中に溢れる馥郁たる金木犀の香りが追いかけてきて私たちを包み込み、えもいわれぬ幸福感に包まれる。2005年10月4日の日記を始めこの日記では散々書いてきたが、金木犀は私がもっとも好きな花の香りだ。この香りを嗅ぐだけで、幸福感に浸ってしまう。出かけてよかったな。

 観たのは、ウディ・アレンWoody Allen監督作品『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』"A Rainy Day in New York"(2019年)。

longride.jp

 

 今を時めくティモシー・シャラメTimothée Chalametとエル・ファニングElle Fanningが主演とは、さすがに御大、80を越えても慧眼だ。シャラメくんは、まだ無名時代に子役で出演した『インターステラー』を先日改めて観たばかり(2020年9月15日の日記参照)だが、伊達にルックスだけで人気があるわけではなく、本当に演技達者だなとつくづく感じる。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のもとで製作が進行しているという、リメイク版『DUNE/デューン 砂の惑星』の主演を務めているそうだし。

 アレン作品でお馴染みのニューヨークを舞台にした、軽妙な会話で綴るロマンチックな都会のお伽話。晴天のニューヨークは表向きのかりそめの顔で、雨が降り出すのは「魔法」が始まる合図。眠っていたこの街の本当の「顔」、ちょっと危ないけれどもロマンチックで魅惑に満ちた側面が目を覚ます。明らかにシャラメ演じる主人公ギャツビーは、そんなニューヨークの「裏の顔」に魅了され続けるアレン本人の分身だ。それも若かりし頃の本人でなく、童心を芯に抱きつつも老いてますますこの街に魅せられる本人の、若い姿での分身として。何しろ名前からして「グレート・ギャツビー」だし。実に分かりやすい(笑)。他にもさまざまな暗喩やイメージが、物語の中に登場する名前やモチーフに込められているのだろう。

 あくまで軽妙洒脱な、シティ・ジャズに彩られた1時間半のロマンチックなお伽噺を、現実を離れて愉しむ。ほんのひとときでも暗鬱とした気分が晴れて、霧雨の向こうに透かし見ゆる光明のほうへ、顔を向けてみたくなる。映画とは裏腹に、外は秋晴れの爽やかな青空が気持ちよく広がっているのだが(笑)。

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(この写真は2020年9月30日に、iPhone SE(2nd Gen.)にて撮影)

(2020年10月4日投稿)