命の極みの刻

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 玄関のドアを開けると、ポーチに瀕死の蝉が横たわっていた。

 

 仰向けに転がって、わずかに弱々しく足を動かしている。

 最期の刻を迎えつつあるようだ。

 

 土の上で終末を迎えられるように、

 そっと脇の植え込みの中に移してやった。

 

 やがて、土に還ることができるように。

 

 しばし、祈るように佇む。

 降りそそぐ真夏の陽射しのもとで、

 命の際に立ち会う厳粛なひと時を噛みしめる。

 それが人間でなくても、どんな生き物でも。

 全ての生き物に、命の重さは、等しい。

 

 折しも昨日は、76年前に広島で多くの命が一瞬で失われた日。

 

 そしてその日の前も、その日の後も、

 今に至るまでの全ての日に。

 

 あなたも、私も、みんな、いつの日にか。

 

 命は閉じ、土に還り、再生の刻を待ちわびる。

 

(写真は8月7日に撮影)

 

(2021年8月8日投稿)