理屈は抜きにして

studio_unicorn20060617

 梅雨がひと休みして、今日の天気は小康状態。晴れ間も覗いたりしている。
 雨が止んでいるこの機会にと、はるばる木場の東京都現代美術館へ妻と行き、「カルティエ現代美術財団コレクション展」を観る。もともと見たかったうえにタダ券があったので、ぜひ行かねばと思っていた展覧会だ。
 入り口で、切り離してカードにもできる、主だった作品を解説した紙を渡される。ほとんどの作家について知識のない私(向学心のない私……)には、とてもありがたい。カード形式なのも、見やすいし便利だし遊び心がある。カタログ買わなくても観た記念になるしね。こういう試みは、とても面白い。こんな工夫といい、随所に配されたスタッフの多さといい、今回の展覧会は好感度高かった。
カルティエ現代美術財団コレクション展
 作品は、巨大なインスタレーションが非常に多く、とにかく観ていて楽しい。多分、制作の背景にはいろいろな意図があったりするのかも知れないが、とりあえず理屈は抜きにして、素直に作品を楽しんだ。その中でも特に気になった作品について、いくつか。
 リチャード・アーシュワーガーRichard Artswagerの、「...?」を巨大な立体物にした作品が、私の今回の一番のお気に入り。着想の面白さと、巨大な立体になった、角度によっては生き物にも見える「...?」が、どことなくユーモラスで、ばかばかしくさえ思えてくるのが最高。ポスターにも採用された、今回の展覧会のアイコンとも言うべきロン・ミュエクRon Mueckの、とてつもなく巨大な、ベッドに横たわる女性像は、すごいとは思うものの、ちょっとリアルすぎて、正直少し気持ち悪かった。確か昨年か一昨年のGEISAIで大賞を受賞した、若き松井えり菜さんの作品は、すごく技法的に優れいているのに、自画像の描き方がばかばかしいくらいにユーモラスでインパクト十分だが、「えびちり大好き!」で水っ洟が出ているのだけは生理的にダメでした(笑)。水っ洟さえなければなあ……(笑)。
Cui Cui
 すごく心にぐっと来たのが、写真家・川内倫子さんの「キュイ キュイ」"Cui Cui"。プリントを並べるのではなくスライドショー形式で見せるやり方が面白い(私は、すでに自分の作品展でやったけどね。笑)。スライドショーにすることで、一枚一枚の写真の時系列的つながりが、より強く伝わってきた。しかも、老夫婦を中心とした、ひとつの家族の流れゆく時を、淡々と見せてゆく。私は、この「流れゆく時、流れゆく歳月」みたいなテーマにすごく弱いのです。う〜ん、その切なさに涙が出そうになってしまった。アンビエントなBGMも素晴らしい。この写真集、買ってしまおうかな。
 それにしても、アートの育成・保護にいちブランドがこれほどに力を入れるあたりが、さすがフランスです。日本でも、バブルとか不景気とか関係なしに、もっとアートを「国の財産」として育成してゆく企業が出てこないとなあ(あ、それを言うならまず政府か)。来月パリへ行ったら、カルティエ財団を訪れることができるかな。

(写真は、思わず引き込まれそうな風情のある、深川の路地。深川界隈にはこういう下町ならではの面白さはあるのだが、気の利いた飲食店が美術館の周りにないのが難点)