英国7日目・古き良きロンドン

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 今日は一日ロンドンLondon滞在。「古き良きロンドンを感じたいなら、メイフェアMayfairがいい」と、ミュージシャンのポール・ウェラーが言っていたのを雑誌で読んだ妻が、Mayfairを見たいと言っていたので、まずはMayfairを散策してみる。
 地下鉄をBond Streetで降り、Mayfairと呼ばれる辺りを適当に歩いてみると、新しきも旧きも赤レンガの、いかにもロンドンらしい建物が並んでいる。静かで穏やかな町並み。時々お店のウィンドウを覗き、公園で休憩しながらぶらぶら歩く。パブや料理店の集まっている一角もあって、美味しそうな匂いを漂わせている。「古き良きロンドン」を味わいながら歩くうちに、Mayfairを抜けてグリーン・パークGreen Parkへたどり着いた。

英国7日目・The Saatchi Gallery

 地下鉄でテムズ川べりに出る。ウェストミンスター寺院Westminster Abbey、国会議事堂にビッグ・ベンBig Benと、Londonおなじみのものが勢揃い。観光客の数もすごい。それらを尻目に橋を渡ってテムズ川の向かい側に行き(しかし今日も実に良く晴れている!)、旧市庁舎Old County Hallにあるサーチ・ギャラリーSaatchi Galleryに入る。この辺も2000年にできた大観覧車ロンドン・アイBA London Eye(写真)があるせいか、観光客でごった返している。
 The Saatchi Galleryは、新進気鋭の現代美術を多く紹介していることで知られているので、一度観てみたかったのだ。あのショッキングな、羊や牛のホルマリン漬け作品を発表したダミアン・ハーストDamien Hirstもこのギャラリーで有名になった。
 行ったときは、"The Triumph of Painting"という新進アーティストたちの絵画展を開催していた。入場料がけっこう高い。これはもうギャラリーというより私立ミュージアムといった感じだ。ここもすっかり有名になり、ある種の「権威」になっているのだろうか。何期かに分かれて行われているようだが、私たちが観たのは、

  • Albert Oehlen
  • Thomas Scheibitz
  • Wilhelm Sasnal
  • Kai Althoff
  • Dirk Skreber
  • Franz Ackermann

……という6人の作家の絵画。うーん、一人も知らなかった……。各人それぞれの流儀で、具象画あり、半ば抽象化された作品あり、表現的な作品あり……と、多種多様に展開していて楽しめた。展示方法がまた贅沢で、ひと部屋にせいぜい3、4枚程度の作品しか展示していない。小さい部屋では1枚だけだったりもする。旧市庁舎の建物をそのまま使用しているので、部屋そのものは大きくはないのだが、それでも少数ゆえとてもゆったりと展示しているので、じっくりと作品と向き合うことができる。その思い切りの良さが素晴らしい。

英国7日目・Tate Modern

 次に行ったのは、同じテムズ川沿いでもだいぶ東にある美術館テート・モダンTate Modern。これも2000年に完成した美術館で、火力発電所だった建物を美術館にコンヴァージョンしたアイディアは、さすが。発電所時代の高い煙突をそのまま残し、独特かつ認識しやすい外観がまず素晴らしい。中もものすごく広々としている。妻と私は3年前にも訪れたことがあるので、今回で2度目の訪問だ(私の両親は初めて)。
 まずミュージアムカフェで軽くパスタなどを食べて昼食。ここのカフェは開放感があって好きだ。食事のメニューも豊富。それからおもむろに(?)ギャラリーに入る。
 企画展はフリーダ・カーロFrida Kahloの作品展だが、入場料もかかるし私はFrida Kahloにはまったく興味がないのでパスし、常設展を観にゆく。常設展だけでもものすごい数の作品が展示されているので、一点一点じっくり観ていたら一日ではとても足りない。常設展は無料なので*1、こちらに長期滞在するのだったら(あるいは住んでいるのだったら)何日もかけて通っているところだろうが、我々は旅行者なので、けっこう駆け足になってしまう。残念だ。
 常設展示は、

  • History/Memory/Society
  • Landscape/Matter/Environment
  • Nude/Action/Body
  • Still Life/Object/Real Life

と4つのテーマに分けられて展示されている。ピカソPicassoデュシャンDuchampなどの“古典”から、現在も活躍中の作家たちの作品まで、多種多様に展示されていて、本当にいろいろな作家のいろいろな作品が楽しめた。けっこう駆け足で観た割には、とても満足した。うーん、でも本当にこちらで暮らしている人は羨ましい、何度もこの美術館(だけでなく他のいろいろな美術館もすべて)に通えて。
 作者名は忘れてしまったが(これからメモを取る癖をつけることにしよう)、皿に盛られた果物という、いかにもセザンヌ的な映像が、高速撮影で10分くらいのうちにみるみる腐ってゆき、変わり果てた姿になってしまうというビデオ作品がとても印象に残った。その作品がまた"Memento Mori"(ラテン語で「死を想え」という意味)という部屋に展示されているのも意味深く、いろいろと考えさせられてしまった。あと、大好きなアンゼルム・キーファーAnselm Kieferの作品を観られたのも嬉しいが、同じドイツ出身のヨーゼフ・ボイスJoseph Beuysの作品を初めてじかに見て、すごく気に入った&いろいろ調べてみたくなったのも収穫だった。
 一通り観終わったあとは、売店Bookshopで本を物色。ここのBookshopはとても巨大で、本も大量にあって嬉しい。本当に目移りしてしまう。いろいろと逡巡した挙げ句、もう少しJoseph Beuysについて知りたいと思ったので、つい2か月前までここで行われていたJoseph Beuysの企画展(残念! あと2ヶ月早くここに来ていればなあ。Beuysだったら絶対に企画展を観たのに)のカタログを購入。もう一冊、これも大好きなミニマリズムについて俯瞰した本も購入。満足した。
Beuys, Joseph: Actions,vitrines,envir Minimalism (Themes & Movements (Paperback))

  • Tate Online(Tate BritainやTate Modernなど、テート美術館の公式サイト。トップページ上のほうにある"Tate Modern"をクリックすると、Tate Modernの情報を見ることができます。日本語も一応あり、かなり簡略化された情報だけだが)

*1:英国の公立美術館は、嬉しいことに常設展はほとんど無料である。やっぱり政府がアートに対してきちんと向き合っている国は違いますねえ。

英国7日目・良きものが失われて

 夕食はちょっと失敗してしまった。最後の晩だし、3年前に一度行ったことのある、ソーホーSohoのメッツォMezzoという、コンラン卿プロデュースの規模は大きいが美味しい英国料理のレストランにしようと思った。ところが、(あとで考えるとこれが失敗だった)ちょっと疲れていたのでホテルの人に予約をお願いしたところ、予約が取れたと言う。いざ時間になってお店に行ってみると、確かに建物にはでかでかと"Mezzo"の文字があり、身覚えていた通りなのだが、入り口にある店の名前が違う。場所の間違いではない。おかしいなと思ってドアマンに訊いてみると、最近キューバ料理の店"Floridita"に変わったと言う。ショック! せっかく、あの美味しい&楽しい英国料理のレストランのつもりで来たのに、キューバ料理だあ?
 中に入ってみると、確かにこの店で予約が入っている。店内の構造も記憶していた通りだ。この店で間違いない。ということは、やはりキューバ・レストランに変更してしまったのだ。残念。ホテルの人もひとこと言ってくれればよかったのに……というより、やはり自分で予約の電話をかければよかった。キューバ音楽の生演奏なんて、うるさいだけで大嫌いだし、店の雰囲気もなんだか変わってしまった。はっきり言ってキューバ風なんて、センスが悪い。たった3年前だったのに、あんな素敵な店を、こんな風に変えてしまうなんて、コンラン卿もそろそろヤバいんじゃないの?と思う。本当に、良きものから失われていくものだ。
 というわけで、すっかり機嫌を損ねてしまったので、そそくさと料理を済ませてホテルに戻り、ホテルのバーで飲み直したのであった。明日の昼こそ美味しい料理を食べて、口直しをすることにしよう。

  • Floridita London(英語のみ。私は全然オススメしませんが、一応掲載します)