ひそやかな猫たち

studio_unicorn20060515

 夜、我が家の屋上で一服していると、隣の駐車場に一匹の猫が佇んでいるのが見えた。毛の色はグレイで、お腹が白い。
 猫好きなもので、じっと見下ろして、猫の様子を観察。猫は、ときどき周囲を見回すぐらいで、ゆったりとした様子。
 しばらく見ていると、ゆっくりと猫が歩き出した。と思ったら、車の陰からもう一匹の猫が登場。こちらは毛の色が真っ白で、背中とお尻だけが黒い。
 白い猫が、グレイの猫へ歩み寄る。お互いに近づいて、向かい合ったまま「ニャ〜〜」と、例の赤ん坊の泣き声のような声を出し合い始める。
 すわケンカの前哨戦か、それとも恋の儀式の始まりか。私は家の中に戻り、めったに見れないものだから妻を呼んで、部屋の明かりを消して、二階の窓から2人で猫の様子をさらに観察。
 しばらくニャーニャー言い合っていた2匹の猫だが、やがて声も止み、しばらくどちらも動かない。
 次に何が起こるのかと思って見ていると、白い猫が身を起こし、ゆっくりと動き出した。これがまた、ものすご〜くゆ〜っくりと動くのだ。足を一本ずつ、まるでスローモーションのように少しず〜つ少しず〜つ動かす。一本動かすと、しばらく静止してからまた一本ゆ〜っくりと動かすのだ。その"そろりそろり"ぶりがあまりにもおかしいので、妻と2人で思わず笑ってしまった。猫の忍び歩きをこんなにじっくり見たのは初めてかもしれない。
 そうしてゆっくりゆっくり、実にゆっくりと、まるで場の雰囲気をできるだけ乱さぬように気を遣うかのように、白い猫はグレイの猫から離れていく。やがてグレイの猫もすたすた別方向へ歩き出し、2匹とも視界から消えていった。
 妻は「あれはきっと、"交渉不成立"だったんだよ」と言った。なるほど、そうかもしれない。あるいは、ケンカになるところを、にらみ合いだけで平和的に収めたのかもしれない。そんなふうに人間くさく想像するのも、また楽しい。
 こんなにじっくりと猫の行動を観察したのは、本当に久しぶりだ。特に、あの"忍び歩き"はちょっとした見ものだった。めったに見られない、春の夜のちょっとした、だがなぜか心温まる経験だった。
(写真は、4月30日に撮影した近所の猫。この文章の猫たちとはなんの関係もない……と思う)