生「惑星」初体験

ホルスト:惑星
 朝フランスの勝利をリアルタイムで観てしまったために、すっかり興奮して眠くなくなり、朝から日記やら片づけやらいろいろとはかどる。早起きして余裕があるはフランスが勝つはで、朝から実に気持ちいい。
 おまけに、今日は、グスターヴ・ホルストGustav Holstの「惑星」を、初めて生演奏で聴く日なのだ。大好きな曲だが、生で聴いたことがなかったので、半年も前にチケットを購入して、すごく楽しみにしていたのだ(2005年12月8日の日記参照)。
 というわけで、妻と一緒に、渋谷のBunkamuraオーチャードホールにて「N響オーチャード定期」演奏会を聴いた。演奏はもちろんNHK交響楽団。指揮は、ホルストと同じ英国出身の若きジョナサン・ノットJonathan Nott。前半の演目、ショパンのピアノ協奏曲でピアノを演奏するのが、ブラジル人のクリスティーナ・オルティーズCristina Ortiz。……とここで気づく。イングランドとブラジルって、奇しくも今日W杯で敗退した国同士だ。楽屋とかで「負けちゃったね〜」とか会話していただろうなあ、と想像してしまう(笑)。
Works
 というわけで、まず前半のショパン「ピアノ協奏曲第1番」。私はショパンはほとんど聴いたことがないので馴染みがないのだが(もちろんこの曲も初めて聴く)、いかにも前途洋々な若きピアニストが作った、技巧に富んだ美しい曲だった。ときどきこっくりこっくりしてしまう妻をそっと起こしつつ(私自身も第2楽章では危なかった。笑)、メロディーに身を委ねる。妻は、演奏の質とか好き嫌いに関係なく、演奏会に行くたびに眠ってしまうので、時々起こしてやる必要があるのだ(笑)。
 実を言うと、ショパンの協奏曲よりも、アンコールでオルティーズさんが弾いた、ブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスHeitor Villa-Lobosのピアノ曲のほうが印象に残った。ヴィラ=ロボスの曲を聴くのは初めてだったのだが、かなり私好みのアンビエントな現代音楽だ。ちょっとヴィラ=ロボスに興味を持ったので、調べてみることにしよう。妻によると、ヴィラ=ロボスはブラジルではもっとも有名な現代音楽の作曲家だそうだ。

  • Cristina Ortiz(アーティストのオフィシャルサイト。"Biography"のみ日本語もあり)

 休憩を挟んで、後半はいよいよ本命の「惑星」。
 いや〜すごかった。初めて聴く「ナマ」の迫力や臨場感は、予想以上のものだった。
 いわゆる古典的なオーケストラに比べると圧倒的な大編成、特に管楽器の数がものすごく多く(チューバが常時2本いるし!)、舞台上はひしめき合っているくらいに見える(笑)。さらに、さまざまな打楽器が登場して、視覚的にも楽しませてくれる。実際に目で見ると、CDで聴きなれた曲でも「あの音はあの楽器がああやって音を出しているのか」と、いちいち新しい発見があって、本当に面白い。
ホルスト:惑星
 そしてその大編成オーケストラが繰り出す、音。「火星」「木星」「天王星」では、これでもかと大音響が轟きわたる。さすがの妻も眠るどころではない(笑)。家でCDを聴くときは、どうしても周囲を気遣ってボリュームを上げられないものだが、ここはコンサートホール。どんだけ大きな音を出しても怒られない(笑)。凄まじいまでの音の迫力、特に2台のチューバによる重低音! 迫力ある音が、しかも録音の再生ではなく「今」生み出されている、という実感。これが生演奏の臨場感だなあ、と改めて感じ入った。
 逆に、「金星」「海王星」といった穏やかで繊細な曲では、ボリュームが小さくて聴こえにくいような細やかな表現がくっきりと聴こえ、じっくりと細部を味わうことができた。若い頃はどうしても「火星」や「木星」などの派手な曲ばかり好きで(今もとても好きだが)、他の繊細な曲はあまり熱心に聴かなかったりしたものだが、(歳のせいか?)こうしてじっくり聴くと、「金星」や「海王星」の繊細な味わいや、天上の異世界のごときメロディがとても心に染み入り、また新たな発見をした思いである。
 さらには、「海王星」の後半に、そっと忍び込んでくる舞台裏の歌声(今回は児童合唱団を使用)。今まで録音されたCDを聴く限りでは、何でわざわざ舞台裏で隠れて歌うのか分からなかったのだが、今日の演奏でその理由をよく実感できた。姿が見えないだけに、本当に「どこからともなく」歌声が漂いだしてくるかのような錯覚に陥る。それが、この曲の神秘性をよりいっそう高めている効果を出しているのに気づくのである。曲の最後では、全ての楽器が動きを止めた後でも、歌声だけがかすかに聴こえ、やがて遠ざかってゆく。嫋々たる余韻。
 なんとも素晴らしい、初めての「惑星」生演奏体験だった。またもう一度、今度は違う指揮者や楽団の演奏で聴いてみたいものである。

(写真は、雨が上がり、ほんのり赤く染まった夕焼け空)