新しいピカレスクロマン

studio_unicorn20080325

黄昏の百合の骨 (講談社文庫)
 恩田陸さんの小説「黄昏の百合の骨」を、本日読了。
 いや〜、やっぱり恩田作品は面白いわ〜。引き込まれるようにして読んでしまいましたよ。とにかく小説技法というのか、読ませるテクニックがものすごいし、この作者ならではの不思議な魅力が詰まった小説だった。
 小説内では一度も地名を明記していないが、どう見ても長崎としか思えない海辺の町街が舞台。この「明らかに舞台は○○なのに、あえて地名を記さない」というのは、恩田さんが多くの作品で使っている手法で、これが作品の得体の知れなさを醸し出している一要素だったりするのだが。その街の、古い洋館の中で、現実なのか別世界なのか判然としにくい物語が展開する。
 佐々木丸美さんの「崖の館」を彷彿とさせる、無邪気かつ残酷で悪徳と背徳に満ちた物語世界だ。世間的な通念で善悪をはっきりと分けない、この物語ならではの"倫理観"のようなものを感じる。ある意味、新しい形のピカレスクロマンと呼んでもいいかもしれない。水樹和佳子さんの「イティハーサ」風に言えば、「威神」サイドの人間ドラマということだ(分かる人にしか分からない例えで恐縮だが)。
 例によって、すべてをすっきりと明らかにせず、曖昧なものを曖昧なまま多々残すラストも健在。独特の余韻。相当の小説的テクニックがある人でないと、こういう微妙で曖昧なところの多い小説を面白く書くのは至難の業だろうな、と恩田作品を読むたびに思う。
 さあ、また次の恩田作品を読むのが楽しみだな。
(写真は、湯布院・亀の井別荘にて。2月3日撮影)