牛真っ二つ、うろつく熊

studio_unicorn20080705

 いよいよ「日本の夏」真っ盛りな一日。じめじめギラギラと暑い〜。例年なら再来週あたりに日本脱出、という手筈なのだが、今年は今月には旅行の予定がないので仕方ない。作品を作りながら、なんとか暑さをやり過ごすしかないな。
 私のリミックス作品展が終了したので、実に久しぶりに祖師ヶ谷大蔵へ行かない週末だ。家の片づけをしたり作品作りに着手しなければと思いつつ、午後は妻と一緒に渋谷へ出かける(笑)。
 渋谷からバスに乗って六本木ヒルズ(ずいぶん久しぶりだ)に行き、森美術館へ。タダ券を入手していた「英国美術の現在史:ターナー賞の歩み展」を観る。1984年以来続いている(1990年は中断)、テート・ブリテンTate Britainの主催による、現代美術の大変重要な賞であるターナー賞The Turner Prizeの、全ての歴代受賞者の作品を一同に展示した展覧会だ。
 大好きな英国だし大好きなテート・ギャラリーの企画だし気になるアーティストの作品がたくさん出るし、とかなり期待していた展覧会だった。が、イマイチ物足りなかったかな〜。
英国美術の現在史―ターナー賞の歩み
 確かに一人ひとりの作家の作品は見応えがあった。デミアン・ハースト氏Damien Hirstの、牛の母子を真っ二つホルマリン漬け作品は、やっぱり実物を見ると凄まじい衝撃で、生と死について否が応でも考えさせられる。ウォルフガング・ティルマンスWolfgang Tillmansの写真作品は展示方法も含めて好きだった。また、大好きな自然派のリチャード・ロング氏Richard Longの、自然石を円環状に並べた作品は、現代のストーン・サークルという感じの趣きで、ある種の聖性を漂わせていて素晴らしかった。
 でもなんか全体として物足りない気がしたんだよな〜。作品数が少なかったわけではないと思うが、それよりもアーティスト一人当たりの作品数が少なかったほうが、物足りなさを感じた原因かな。ハースト氏が(巨大だが)2点だけ、ロング氏も(さらに巨大だが)1点だけの出展だった。要は上記にあげたような好きな作家たちの作品を、もっともっとたくさん観たかったということかもしれない(笑)。展示スペースがずいぶん余っていたようにも感じたぞ。ただ、よく全貌を知らなかったターナー賞の流れや歴代受賞者について知ることができたのはよかった。
 すごく気に入ったのが、2007年受賞者のマーク・ウォリンジャー氏Mark Wallingerによるヴィデオ作品。夜に、ベルリンの美術館のホールの中で、ベルリンの象徴たる熊の着ぐるみを着た作者自身がひたすらうろうろする、という作品。始終周囲から監視され続けて、逃げ回ったり脱出を試みたり隠れたり寝たふりをしてみたりと、現代の監視社会を彷彿とさせる怖い作品……のハズが、どうにも熊の着ぐるみのせいでユーモラスに見えてしまう。ついつい笑ってしまうんだよね。でもその微笑ましさこそが、いろいろなオブラートに包まれて笑って見過ごして、気づかないうちに恐ろしいことが進行している「かもしれない」現代社会の怖さを感じさせて、けっこう戦慄させる作品なのかも……と後で気づいたり。この作品を観ることができたことが、この展覧会の一番の収穫だったかもしれない。

(写真は六本木ヒルズにて)