「アーティスト・ファイル2009」

 表参道からさらにぶらぶらと散歩。青山墓地を抜けて、乃木坂へ。国立新美術館に至る。

 今日も新美術館は、抜けるような青空の下で気持ちよくうねっている。
 国立新美術館で開催中の「アーティスト・ファイル2009」を妻と観る。昨年観た第1回の「アーティスト・ファイル2008」がとても面白かった(2008年5月4日の日記参照)ので、第2回目の今回も、以前からとても楽しみにしていたのである。"The NACT Annual Show of Contemporary Art"と題して、国立新美術館学芸員が推薦したい、または紹介したい作家を持ち寄って企画する展覧会である。
 今回出展しているのは、以下の9人のアーティスト。

POLAR ポーラー
 昨年もとても楽しんだが、今回はさらに面白かった〜。人選がとてもよい。
 特に気に入ったのが、ペーター・ボーゲルス氏のヴィデオ・インスタレーション作品。中でも"The United Field"という作品は、壁面いっぱいに古い、ぼやけたスピーチ映像が映し出され、そのスピーチが頻繁にストップすると「え〜〜〜〜〜」と聞こえる詠唱のような声の集合体が鳴り響き、また映像が再開する、というのの繰り返し。なのだが、部屋のあちこちに小さなスピーカが吊り下がっており、耳を近づけると「え〜〜〜〜〜」のたびに、それぞれ異なった民族の民謡やら歌声やらが聞こえる。実はこれらの歌声が一斉に鳴って、例の「え〜〜〜〜〜」になっているのだ。このアイディアがすごく面白い。映像が止まって「え〜〜〜〜〜」になるたびに、それぞれの歌声を聴こうとして違うスピーカの下へ移るものだから、この部屋に入った観客はみな「だるまさんがころんだ」状態(笑)。それもまた観ていて可笑しい。この部屋には何時間でも飽きずにずっといられるな。他にもそう思う人は多いようで、部屋の隅に座り込んでじっと目と耳を傾けている人がちらほらいたな。
 冒険家かつ写真家として既にとても有名な石川直樹さんの、極地や富士山頂、フランスの絶壁住宅などを写した写真作品も素晴らしく、ずーっと観ていたい(写真集ほしいな)。金田実生さんのほんわりと優しい、パステルカラーとソフトフォーカスに包まれた絵画作品もすごく気に入った。その一方で、中村宏氏の作品を彷彿とさせる緻密なタッチと"毒"で、言葉の力も駆使して人間社会のアイロニーを表現する齋藤芽生さんの鋭利な刃物のような作品もいい。村井進吾さんの黒御影石彫刻はシンプル&ソリッドな造形で、ドナルド・ジャッドばりにミニマルな作風が素晴らしい。そして宮永愛子さんの、古い箪笥やアンティークとナフタリンの彫刻を組み合わせた、レトロかつ変容してゆくインスタレーション! これがまた素晴らしかった。ナフタリンを材料に使うアーティストなんて他に聞いたことがない。少しずつ昇華して変容してゆく、その素材の面白さもさることながら、古い道具と組み合わせるというアイディアが秀逸。
 いやあ、本当に面白かった。作家ごとに分冊されてケースに入ったカタログももちろん購入した。まだ会期は十分にあるし、もう一回来るかな〜。