みんながうれしいのが一番

 大丈夫だい。私が言いたいことはちっとも難しいことではありません。手を取り合いましょう。困っている人がいれば助け合いましょう。人は人を思いやる心を、誰かが苦しめば胸が痛み、誰かが救われれば温かくなる心を当たり前に持っている。助け合うんだ。仲良くすんべぇ。そうでねぇと、とっさまやかっさまに叱られる。みんなで手を取り合いましょう。みんながうれしいのが一番なんだで。

 吉沢亮さん演ずる91歳の渋沢栄一が、生涯を閉じるほんの少し前にラジオで発する最後のメッセージ。素朴な郷里のことばも交えながら語りかける。当たり前のことなんだけれど、私たちがなかなかできないこと。今日でも大いなる課題。それに向かって走り続けた栄一の生涯は、その生涯の軌跡そのものが私たちに向けた大いなるメッセージだったことに、最終回になってようやく気づく。

 

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 大河ドラマ「青天を衝け」の最終回(第41回)の録画をこの日、ようやく観た。

 先述した通り昨年秋に新居への引っ越しに伴う前後のドタバタがあって、そのせいで録画したまま観ていない回が相当溜まって大幅に遅れてしまった。それでも頑張って消化して、最終回の本放送が流れた昨年12月26日の時点では残り4話まで追いついた。

 その一方でこの年越しの時期は、これも先述の通り住環境の著しい変化でプチ適応障害っぽくなって新しい暮らしに慣れるのに精一杯で、とても年末年始気分を味わう余裕もなくそれらしいことは何ひとつしなかった。このところ目の疲労度が再び悪化して画面を長時間見続けていられず、一日に観ることができるのはせいぜい1話分が限度なので、何もしなかったのが却って幸いして年末に連日まとまった時間を取れて数話分を続けて鑑賞できたのは大きく、残すは最終回のみ、というところで年を越した次第。

 

 昨年夏にこのテレビドラマについて書いて(2021年8月15日の日記参照)以来、もっと書こう書こうと思うだけで先述の通りのバタバタの渦中でもがくばかり。全く書けないうちに最終回を迎えてしまったのは非常に残念。それでも、幕末から明治への激動の時代をこれほどの新しい視点から描き切ったこのドラマを、最終回まで観ることができただけでも誠に幸いであった。それほどに、「青天を衝け」は、素直に「観てよかった」「一年近く付き合うことができて本当に幸せだった」ドラマだ。

 一年近くの期間を、週に一度とはいえひとつのドラマを観続けて「付き合う」ということは、ある意味ではそのドラマを生活の伴侶というか一部として、一年近くの期間を共に過ごすということでもある。勿論その人にとって、何らかの面で付き合い続けるに足るドラマでなければならないのはいうまでもない。「青天を衝け」は、まさにそれに値するドラマであった。

 唯一不満、というよりは本当に惜しかった&勿体無かったと悔しく思う点がある。それは、このドラマを高く評価するほぼ全ての人の意見として一致しているようだが、とにかく話数が少なすぎた(たったの41話!)、物語が短すぎたということだ。

 

 いやしかしそれにしても、今頃になって渋沢栄一の足跡を辿ってあちこち訪ねてみたくなってきたぞ。都内ですぐに行けそうなところでは、飛鳥山公園東京商工会議所は行くべきか。そして何より栄一の故郷・血洗島(埼玉県深谷市)に行きたくてたまらない。あの地平線に延々と畑が続く、日本人の原風景のような農村の景色は現代ではもう望めないのかもしれないが、東京で生活しているとまず感じることができない「武蔵野の地平線を眺める暮らし」に触れるだけでも、栄一たちの青春の息吹を感じ取ることができるような気がして。

 というより、これはきっと「青天ロス」「栄一ロス」の私なりの表れなのだろう。要するに、最終回を迎えてしまって、もうテレビではあの物語の世界を味わうことができないので、他の何かでその欠如を補填する必要がある、というか。そこでDVDなどでドラマをもう一度観返すという方向にはすぐにいかないのが、天邪鬼な私(笑)。小説版とかサントラとか活躍の舞台を訪問とか、微妙にドラマの周辺のものを当たることが多いのである。これはきっと、私がドラマそのものもさることながら、より以上にそのドラマの世界そのものに浸っていたいからなのだと思う。ドラマの中の世界に身を置いて、特に何もしないで佇んでいるだけでもいい、というか。

 ちなみに、これを書いている2022年1月13日の時点では、新しい大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の第1話の録画は、まだ観ていない。今回の日記を書くまでは観ないつもりだった。うっかり観てしまうと、すっかり頭の中が「鎌倉殿」に占領されてしまってそっちのことばかり書きたくなって、今更「青天」のことを書く気が萎んでしまうかもしれないので……(笑)。

 うん、でも、最終回を終えて年が改まって、すっかり世の中が新しい大河ドラマ一色に染まってしまっている今こそ、私はむしろ「青天を衝け」についてもっともっと大いに語りたいのだ。今回はずいぶんと取り留めもなく書いてしまったが、それは書きながら「これも書かないと、あれも書かないと」と次々に浮かんでくるから(笑)。語りたいこと、語るべきことは山ほどある。毎回観るたびにメモを書いて、そのメモが全41話分でトラベラーズノートのリフィル一冊分に相当するくらいの分量はあるのだ。そうは言っても目の疲労が激しく画面を長時間見ていられないので、まあ大して書くことはできないとは思うけれども。何かの折に触れてでも、書く機会が持てれば何よりなのだが。とりあえず話数が短すぎたことについては書かないとな(怒)。

 

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 「みんながうれしいのが一番」という、栄一が生涯胸に抱き続けて全ての行動の指標として掲げ続けたモットーは、今なお私たちに、私たちが向かう道が正しいのか問う時の指標であり続けていると思う。栄一たちが日本の近代に向かって開いた道は、私たちがこれまで歩いた道であり、これから歩んでゆく道に続いているのだから。

(写真は2022年1月2日と3日に撮影)

(2022年1月13日投稿)