ヴェネツィア5日目・憧れのLocanda Cipriani

20070711g
 ブラーノから水上バスでわずか5分、お隣のトルチェッロ島(トルチェロ)Torcelloに着く。
 ヴェネツィア発祥の地といわれる島。ヴェネツィア最古の教会を擁し、中世には2万人を超える人口があったといわれる島。今はその面影はまったくなく、水上バスの船着場からのびる一本だけの道の両側には茫漠たる野原が広がり、わずかな人家とかつての栄華を忍ばせる2つの教会があるのみ。静けさが支配するだけの忘れられた島……だった。少なくとも前に2回来たとき(11年前と7年前)は。
 水上バスを降りたときに、すでに何かが違うのを感じた……船着場が綺麗に整備されている! レンガが敷き詰められて、ちゃんと水上バスを待つ小屋すら建っている。さらに、一本道を辿っていくと、なんだかリストランテやら土産物屋やらが新しくできているらしく、その数を増している。さらに、一本道以外に、別の道ができている! 新しく民家が建てられている! 
 ……要するに、けっこう開けてきていたのだ。観光地として本腰を入れ始めたのか、それともこの島の静寂な雰囲気に惹かれて移り住む人が増えたのか、多分両方だと思うが、以前記憶していたよりは、格段に賑やかになっていたのには、ちょっとびっくり。少々寂しい気も。
 気を取り直して、本日泊まるホテル&リストランテ「ロカンダ・チプリアーニ」Locanda Ciprianiにチェックイン。このトルチェロ唯一のホテルこそ、ずーっと気になっていて泊まってみたいと思っていたホテルで、ようやく今回それが実現した。この旅のひとつのハイライトと言ってもいいかもしれない。かの「ハリーズ・バー」の創業者チプリアーニ家の経営するリストランテ&ホテル、かつてヘミングウェイが泊まり、若きチャールズ皇太子とダイアナ妃が訪れ、その他数々の著名人が訪れた料理旅館である。部屋数はシングル3、スイート3のわずか6室。リストランテの食事は、ランチは一般のお客さんも食べられるが、夕食に関しては宿泊客のみにサーヴィスされるのだ。
20070711h
 2人部屋はすべてスイート形式で、案内された部屋も二部屋が続きになっている。大きな開放窓がたくさんある上に壁が白く、大変明るい雰囲気の内装。床が木のフローリングなので、ナチュラルな感じがとても嬉しい(右上と右の写真)。窓からは、ホテルの庭園や古い教会、さらにはその向こうのラグーナまで見渡せる。柔らかな風が入ってきて、この島の静かで爽やかな、かつ穏やかな雰囲気を伝えてくれる。これは素晴らしい。すごく気に入った。
 のんびり佇んでいるだけで、心がほぐれてくるような気持ちになるこの部屋で、まずはThe Hilliard Ensembleの"Perotin"などを聴きながら、穏やかな雰囲気を心ゆくまで楽しむ。それからホテル内を散策。なかなか広い庭園をそぞろ歩き、さらに古き教会の周りや水べりなどを歩く。すでに夕方の6時近いので、日帰りの観光客たちはもうほとんどいなくなり、島もようよう静かになって、なんとも牧歌的な鄙びた雰囲気が、とても心地よい。この感じを味わえるだけでも、本当にこの島に一泊しに来てよかった。
Perotin / Hilliard Ensemble
 夕食は庭園にしつらえたテーブル席でいただく。せっかくなので、ちょっとだけ気取った格好で席に着いた。涼しい風が通り抜けてとても気持ちがいいが、蚊がけっこういて(水の多いヴェネツィアでは、蚊は一種の"名物")、妻はいくつか刺されてしまった。あわててウェイターさんが蚊取り線香を出してくれた。
 我々夫婦のほかには宿泊客はひと組だけ。食事も素晴らしかった(ポレンタだけは塩気がやや強かった)が、従業員のサーヴィスもまた非常に心得たサーヴィスで、これまた素晴らしかった。やはりいいホテルやレストランというものは、教育の行き届いた従業員がどのようなサーヴィスをするのかが重要なポイントだな。