重力は時間を超える

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 109シネマズ二子玉川にて、クリストファー・ノーラン監督Christopher Nolanの名作『インターステラー』"Interstellar"(2014年)を、IMAXレーザーでの特別上映にて鑑賞してきた。同監督の最新作『テネット』"Tenet"に関連した企画だったらしい。

 我が家から自転車で気軽に行ける二子玉川の109シネマズも、3月にIMAXシアターを鮮明な映像がウリのIMAXレーザー仕様にアップグレードしていたのを初めて知った。そのおかげで、二子玉川でも『インターステラー』の特別上映が可能になったらしい。

 『インターステラー』は、2014年の公開当時に映画館で観て(その時はたまたま観た映画館が、これまた特別限定のフィルム上映だった)、その後もブルーレイを購入して何度も観ている。ノーラン作品では『インセプション』『ダンケルク』と並ぶ大好きな映画だが、2時間50分超の長尺ゆえ観るにはまとまった時間が必要になり、そのため鑑賞回数はさすがに二桁には届いてないか。伏線回収なども含めほぼ中身を知り尽くしたと言っていい作品だが、IMAXの大スクリーンでこれを観ることができる機会は滅多にない。いいチャンスだ。家から近いし。

 また、この新型コロナウイルス禍のせいで今年の1月を最後に8か月近くもシネコンで映画を観ておらず、早く「シネコン復活」したい気持ちもあった。

 というわけで観てきたのだが……。

 いやあ、すごかったです。

 まさに、「最高の映像体験」だった。

 何度も観た同じ作品なのに、ここまで「新しい」体験ができるとは。滅多にないだけに、見逃さないで本当によかったと、心の底から実感。映画を観るのも、演劇やライブと同じで、本当に「一期一会」なものだと改めて思う。

 私たちの席が4列目と、少々前寄りの席だったのもよかった。IMAXは天井から床までの巨大スクリーンだけに、その辺の席で観ると視界全体が画面に占領されて、それ以外のものは全く目に入らない。そこにIMAXレーザーの鮮明な映像なので、特に宇宙空間の映像などは、臨場感がハンパない。加えて腹の底まで響く素晴らしい音響が、映画のリアルさを更にかきたてる。本当に自分も宇宙空間の中にいて、巨大な窓から直に宇宙を眺めているかのような錯覚に陥るほどだ。もともと私は映画館では前寄りの席に座るのを好むのだが、『インターステラー』は何度も観ている作品だけに画面全体を俯瞰する必要はさらになく、むしろ映画の中にいかに「没入」できるかが重要だったので、前寄りの席で大正解だった。

 

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 IMAXシアターをここまで堪能したのは、2017年の『ダンケルク』以来だったかも。いや、映像の美しさに圧倒されたという意味では、あの時を超えていた気がする。『ダンケルク』を観たのは同じ二子玉川のIMAXシアターだったが、当時はまだIMAXレーザーに改良される前だったので。ノーラン監督のIMAX好きは有名らしいが、そう言われるほどに、手がける作品が「IMAX向き」に作られているということでもあろう。ただ闇雲に大作だからIMAXで〜としてしまうその辺の「大作」と違い、ノーラン作品の場合は、IMAXの特性を理解してそれを最大限に生かした映像を作るという、職人芸のようなものを感じる気がする。その最たるものが『インターステラー』なのだろう。その分、追加料金は通常のIMAXより200円高いのだが、「特別な体験」のために余計に払っただけの価値は十分にあった、と心底思う。まあそんなところでケチる程度なら、初めから観ない方がよいのだが(笑)。

 クリストファー・ノーランという人は、決して映像美を追求するタイプの、いわゆる「映像派」の作家ではない、と私は思う。むしろ、美しい絵と音が物語の効果を高めることに注力して、その意味での「凝った」映像を作る人なのだという印象を抱いてきた。だから、物語の進行と映像効果のシンクロが狙い通りに発揮されたときに、観客の感情がものすごく高められ、その中で映像と音楽が最も「美しく」印象づけられるように仕掛けられている。IMAXシアターのシステムもきっと、彼にとってはその手段のひとつなのだ。そうまでして彼の作品が訴えているのは愛とか親子の絆とか人類の正義とかごく普遍的なものごとなのだが、それが高められた効果によって私たちの心にずっしりと刻み付けられ、言葉にならない切なさと想いが溢れかえってしまう。その最高峰たる『インターステラー』『インセプション』には、だからこそ何度も観たくなるほどの忘れ難い印象をいだき続けるのだろう。少なくとも私はそうだ。

 だから、いくらでも深読みができる『インターステラー』は、見た目は物理理論がガンガン投入されて、小説ならバリバリのハードSFに分類されるような側面を持つのだが、その芯はとてもシンプルで普遍的な、人類を救うために奮闘する人々を描いた冒険物語だったりする。難解な物理理論を行動に反映させて、観客の理解レヴェルに下げてくれる役割を果たしているのが、マシュー・マコノヒーMatthew McConaughey演じる主人公クーパーの存在。私たち観客は、クーパーの行動をひたすら追ってゆけばいいのだ。

 けれども、そうした物理理論は物語に不可欠な要素であって、決して単なる目くらましや余計な「飾り」ではない。私たちは、少なくとも「重力は時間を超える」という理論だけは押さえておかねばならない。私の大雑把な理解では要するに、重力を制すると時間を操れるようになるということだが、コレが物語の構造にダイレクトに関わっている。この理論のおかげで、愛だの親子の絆だのといった普遍的なテーマが、他の映画では真似できないような、実に意外な形で私たちの前に立ち現れるのだ。そして私たちは深く涙する。(あ、コレはネタバレになるのか? 知っていても物語の面白さを何ひとつスポイルしないと思うので、大丈夫か)

 

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 それにしてもこの作品が公開された2014年当時には、まさか6年後の2020年に新型コロナウイルスがこの地球上を席巻するなどと、私たちはどれほど予想していたか。映画の中で滅びに瀕している地球人たちが、ウイルスの拡散防止ではなく砂嵐を避けるためだがマスクを着けて暮らしているさまをこの2020年に改めて見ると、その予言的な光景に、その奇妙な暗合に慄然とする。よく考えると当たり前のことだが、地球そのものが人類のため環境を整えてくれているわけでは、ない。全ては変転するのだから、いつか地球の環境が人類の生存に適さない形に変化してしまうことも、十分にあり得るのだ。科学的に捉えると、今の地球の環境は「たまたま」今の形で存在しているに過ぎないし、人類もまた、その星の上に「たまたま」現れ出たに過ぎない。この映画の中で起きている「人類の未来」は、決してあり得ない未来ではない。映画のことばを借りれば、「起こり得ることは起こる」のだ。(映画の中ではポジティブに使われているが、元々はニュートラルな意味合いの表現かと思う)

 最後に、キャストについて少々。アン・ハサウェイAnne Hathawayは私の大好きな俳優さんの一人だが、この人って何を演じても「アン・ハサウェイ」になっちゃうんだよね〜。いや、別に演技が下手なわけでは全然なくて、ポジティブな意味合いで言っているのですが。地球を救おうと奮闘する科学者の役でも、鬼編集長にイビられるアシスタントを演じても、キャットウーマンを演っても、その役柄に埋没してしまうのではなくて「アン・ハサウェイ」という個人がはっきりと出てくるなあ、と感じるのだ。

 それから、今を時めく若手スター俳優ティモシー・シャラメTimothée Chalametが、クーパーの息子トムの子供時代の役でこの映画に出演していたことは、意外に知られていないように思う。まだ全くの無名時代で、クレジット表記もとても小さいので無理からぬことだが。この6年でこんなに有名になるとは。才能と運があるならば、6年あれば十分か。 

インターステラー [Blu-ray]

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  • 発売日: 2015/11/03
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 ノーラン監督の最新作『テネット』も、すごく楽しみ。『インターステラー』上映前に、『テネット』のかなり長い(10分くらいはあったか)、おそらく冒頭部分かと思われる特別映像が流れたが、その緊迫した物語にすっかり引き込まれてしまった。この新型コロナウイルス禍にもめげずに、ノーランは映画館に客を呼び戻したいと、公開予定をできるだけ延期せずに済むよう頑張ったと聞く。その意気やよし。早く映画館で観たいなあ。

https://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html

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(写真は全て2020年9月15日に、二子玉川にて撮影)

(2020年9月22日投稿)