レンタルしたDVDで、映画『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』"Knives Out"(2019年)を観る。
名探偵が登場する本格推理ものなので、ちょっと期待して観たのだが。
う〜ん……。
途中で犯人(というか黒幕)の目星がついてしまった……。
トリックの要もなんとなく見えてしまった……。
それに、観終わってなんともすっきりしない映画だったなあ……。後味を最重視する私には、これは大きなマイナス。
ライアン・ジョンソン監督Rian Johnsonは本当に心から「アガサ・クリスティのような本格推理もの」がやりたかったのだなあというのは、実によく伝わった。いかにも事件が起こりそうな豪壮な館に屍体とごっそりの容疑者だし、いかにもな名探偵が登場して捜査する。その辺のお膳立ては、本格ミステリの王道を押さえているように思った。
だからこその難しさ。本格ものを志向して作り込んだこの作品のプロットは、小説の本格ミステリであればよく見かける程度の複雑さなのだが、これを映画でやると「やりすぎ」になってしまうのだ。だから解決してもカタルシスを感じない。
ネタバレしてしまうので詳細には書かないが、この映画を観て、つくづく本格推ミステリを映像化することの難しさを感じだ。オリジナルの脚本であってもだ。本格推理ものを表現するのは、やはり文字を連ねる「小説」こそが最も相応しい形だな、と。それをそのまま映像のフォーマットにのせると、どうしてもある種の歪みが出てきてしまう。映像化に適するように「変換」が必要になる。ケネス・ブラナーが手がけた『オリエント急行殺人事件』のリメイク(2017年)を観たときにも、同じような感想を抱いてしまった(1974年版のほうはその点上手く扱っていて、まことに傑作なのだが)。本格推理小説が大好きなだけに、つくづく残念なことではあるのだが。
むしろ、アナ・デ・アルマスAna de Armas演じる主人公マルタが「嘘をつくと必ず吐いてしまう」という、いかにも映画ならではの設定が、物語の中で巧妙に機能していたのが印象的だった。この手の設定は小説でやるとすごく嘘くさくなってしまいがちなので、映画だからこそ上手くいったというべきか。ただ、この設定そのものがこの映画の本格ミステリらしさ=純粋な謎解き要素を最終的に邪魔してしまったのは、まさに「諸刃の剣」。実に皮肉なことだ。
ただ、米国が抱える深刻な移民問題を物語に絡めているのは、注目したいところだ。松本清張らの「社会派推理小説」を持ち出すまでもなく、もともとミステリ作品は社会問題を扱いやすい性質を持っている。その移民問題での上下関係が、結末で皮肉な逆転を見せているのは象徴的だ。
(写真は2019年9月1日に、東京の駒場公園内・旧前田侯爵邸にて撮影)
(2020年9月24日投稿)