猫のような毛並みがもふもふ

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 映画『名探偵ピカチュウ』"Pokémon Detective Pikachu"を109シネマズ二子玉川にて鑑賞。字幕版。

 正直言って、これまで私はポケモンのゲームをプレイしたことがないし、漫画を読んだこともテレビアニメを観たこともほとんどない。ポケモングッズも集めたことないしねえ。ポケモンに対しては、世間一般程度の知識しか持っていなかった。ポケモンの「顔」ともいうべきピカチュウにしても、まあちょっとカワイイかなくらいの認識だった。

 だが、ポケモンの、ハリウッドでの初の実写映画である本作の予告編を見て、「この」立体的で動き回るピカチュウの凄まじいカワイさにヤラレてしまい、一も二もなく映画を観に行った次第である。なんというか、ある意味ハリウッドの「すごさ」を如実に感じた作品でもあった。

 とにかく立体的なピカチュウの毛並みがふさふさして、本物の猫みたい(ピカ「チュウ」というだけあってモデルは鼠なのだろうが、サイズといい毛並みの感じといい猫っぽさが溢れている)。見るだけでふさふさの毛並みの手触りが伝わってくるような錯覚に襲われる。最近、私の家の近所で妙に人懐っこい猫をよく見かけるので、その猫をなでなでしてあげるのだが、その毛並みの手触りを如実に思い出してしまう。うーん、このピカチュウ、すごくなでなでモフモフしてあげたい! 更にこのピカチュウ、しわくちゃ顔やしょげ顔をはじめ非常に豊かな表情を見せる。これがまたすごくカワイイ。そしてちょこまか走り回りながら、ライアン・レイノルズのおじさん声で毒舌かましつつ喋りまくるのがまた妙にアンバランスだが慣れると意外に似合ってカワイイ。ちゃんと口を動かして喋っているのがいちいちカワイイ。とにかくカワイイ。

 ピカチュウがカワイイ。

 ピカチュウがカワイイ。

 ピカチュウがカワイイ。

 ピカチュウが(以下同)。

 「名探偵ピカチュウ」はすでに独立したゲームとして存在するそうだが、この映画の勝利ポイントはピカチュウに「おじさん声」で喋らせて、カワイイ外見とのギャップを際立たせたことか。この手の設定はもちろん『テッド』"Ted"(2019年1月26日の日記参照)が最初で、あの映画はアレで大好評を博したわけだが、そこから得た着想のように思われる。こちらは子供も観ることを想定した映画なので、さすがにテッドほどオヤジで下品ではなかったけれど(笑)。ピカチュウがおじさん声で喋っている理由というか真相は、実は物語の根幹と密接に結びついているので、「単なる趣向」で終わらないところがミソか。

 その物語の方も意外に(?)手堅くオーソドックスにまとまっているし、何重にも父子関係を織り込み、友情やバディ精神を加えたヒューマンな主題を込めてなかなか面白かった。「探偵もの」らしくミスディレクションのどんでん返しも用意されている。と言ってもそこはポケモンなので、お子様も観て分かる程度のレヴェルに抑えられてはいるけれども(笑)。この映画でエラリー・クイーンばりの論理ガチガチのトリックなどは期待してはイケマセン(笑)。そこはオトナになって鷹揚に構えましょう(というのも、別のところでこの映画の「謎解きがチャチい」という、かなり無理筋で大人気ないレビューを見たもので)。とにかくこの映画のプロットも設定も謎解きも、全てはピカチュウのカワイらしさを愛でるための仕掛けなのですから!

 それにしても、ポケモンという、極めて日本的な二次元的(漫画・アニメ・ゲーム)文化のキャラが、西洋的なハリウッドの三次元実写映画(ハリウッドはアニメさえも三次元の表現物にしてしまった)のフォーマットで表現されているというこの状況、正直言って観ていてどうも背中が微妙に痒いような気分が抜けなかったのも事実。両者の持つ世界の違いが、先入観として自分の中に厳然と存在する故だと思う。線画で囲って造形するのが標準とされた日本漫画・アニメの造形表現を、輪郭線がなく形体と面のテクスチュアで表現する西洋の方法で再表現することへの微妙な違和感(悪い意味ではなく、単に「違う」という感覚)というか。日本の浮世絵という、西洋的な表現の「常識」から逸脱した新たな視点を19世紀に印象派の画家たちが「発見」したのと似たようなカルチャーギャップと言うべきか。戦後日本の、欧米の文化を無意識に「上」に位置づけてしまう価値観の残滓も残っているのかもしれない。最近だと、『レディ・プレイヤー1』"Ready Player One"を観た時に、これと近い不思議な感覚を覚えた。

 人間とポケモンが共存するライム・シティは、異質なものが共存するある種の理想郷として登場するが、その、内に問題を抱えた理想郷ぶりが『レディ・プレイヤー1』や『ズートピア』"Zootopia"を彷彿とさせる。また、ライム・シティでは人間が必ずポケモンを連れているのだが、「ライラの冒険」シリーズでの人間とダイモン(こっちは動物の姿だが)の関係を連想した。こんな風に個々のアイディアは既出のものだが、それらをポケモンの枠内で成立させたことが、この映画の特色になったように思う。映画に出てくる様々なポケモンの特徴を、物語を転がしてゆく要素としてうまく活用していたのも、そういう意味ではとても良かった。

 ヘンリー・ジャックマンHenry Jackmanによる音楽も思いがけず良かった。特徴的なメロディーが出てくるわけではないが、エレクトロニカ系のようなアンビエントで静謐な、私好みのスコアが随所に出てきて耳を惹いた。主題歌とかはどうでもよくて劇伴スコアが大好きな私にとっては、このサントラは要チェックです(後日購入しました)。

「名探偵ピカチュウ」オリジナル・サウンドトラック

「名探偵ピカチュウ」オリジナル・サウンドトラック

 

 長々と書いたが、何と言ってもピカチュウのもふもふしたカワイらしさが全て! ピカチュウ見たさに、2週間後にもう一度劇場で観てしまった(笑)。もちろん映像ソフトも買います。

(2019年10月25日投稿。これも途中まで書いたまま、長いこと放置してしまいました)