「脱クルマ社会」への取り組み

 

 私たちが暮らす東京都世田谷区の保坂展人区長が、任期を新たにするごとに区内の各所を巡回して、区民と直接対話する「車座集会」。

 長らく世田谷区に住む人にはお馴染みの車座集会だが、今年4月に行われた区長選で保坂氏が4選を果たした。それに従い、区内全28地区に設置された「まちづくりセンター」を区長たちが数か月かけて巡回し、この車座集会を順次開催している最中だ。

 私自身も、区長自ら区民と直接対話の場を持ち、しかも「車座」というからには上下の差なく対等に意見を交わす集会だろうから、以前から興味があって一度は参加してみたいとは思っていた。だが機会が合わなかったり雑事にまぎれて機を逸したりしてしまい、なかなか果たせないでいた。

 だが、今回の車座集会はこちらも相当意識していたのもあって機会を逃すことはなく、半月ほど前の7月16日に私たちの地元である「新代田まちづくりセンター」で開かれた車座集会に、私の妻とともに参加することができた。

 大変残念なことに、保坂区長はその数日前に新型コロナウイルスに感染してしまったそうで、会場にはおいでにならずオンラインでの参加であった。もう他の人に感染すリスクは消滅しているそうだが、万が一を懸念して念のために、ということらしい。ということで区長ご本人は不在ながら、会場前方の大きなスクリーンに区長のお顔が映し出され、区長の側からも会場の様子がこちらからと同様に見ることができるそうなので、なんというか「不在感」のようなものは全く感じない。私は恥ずかしながらオンライン会議の類にはほとんど参加したことがなく、今回がほぼ初めての体験なのだが、けっこう同席しているような雰囲気になるものだなあと変なところで感心していた。

 せっかくの滅多にない機会なので、ずっと長いことモヤモヤと考えていたことを区長に直接話したかったのだが、参加者の発言時間がひとり3分以内と短く、話し下手な私にはとても要領よく時間内にまとめて話をするなんてできない。なので車座集会の時間中は別のことでは短く発言したが、この懸案のことについては特に触れなかった。参加者の皆さんがなかなかに身近かつ切実な事案のことを話されるので、私の考えていたやや「大きなこと」が迂遠なことのように思われていささか気が引けてしまった、というのもある。

 そして終了後に会場で参加者に配られた後日提出用の「意見・質問票」に、改めてこのことについて書いて(正確にはワードで書いて出力した紙を添付して)、提出したのだった。

 「『脱クルマ社会』への取り組み」と題した文章である。区長や区役所の方々に読んでもらえればこの文章の役目は果たしたことになるのだろうが、より多くの人にご覧いただくのも良いかと思い、ここに再掲します。文末の日付・署名を省いた以外は、区役所に提出した文章そのままである。よって誤記・誤認識の類が多かろうと思われるが、ご寛恕及びご指摘いただければ幸いである。

 

 

 自動車の排出する二酸化炭素など温室効果ガスが地球温暖化の大きな要因である以上、これからの持続可能な社会を作り出すには「脱クルマ社会」への取り組みは必須です。自動車業界の方々は飛行機だけを悪者にしようと躍起になっているようですが、国土交通省のデータなど国が開示している資料でも明らかなように、利用者あたりの二酸化炭素排出量は自動車が飛行機を大きく上回っており、その中の多数を自家用乗用車が占めています。昨今もてはやされているEVにしても結局は化石燃料を消費するわけで、自動車が地球環温暖化を押し上げている主要因の一つであることに変わりはありません。

 このように地球上の自動車の絶対数を減らす取り組みが喫緊の課題なのですが、辺境地域など人口が非常に少なく公共交通を整備できず、自動車が人々の生活に欠かせないエリアが存在するのもまた確かです。さらに都市部でも、介護分野の送迎車両や流通・輸送配達関連など、住民の幅広い利便のために自動車輸送の必要性が年々増大しています。となりますと、これからの社会に欠かせないこれらの需要を優先させるために、公共交通やインフラが発達した都市部での自家用乗用車削減の取り組みが一層重要になります。まさに世田谷区はそうした地域の典型です。区民一人一人が「自分ごと」として自家用車をできるだけ持たない、「脱クルマ社会」への取り組みをおこなう必要があります。自家用車を所有することは都市住民にとっては最早ステータスではなく、むしろそれが都市の生活において本当に必要なものかどうかを問うべきなのです。区内の公共交通網を整備してこれまで以上に充実させ、さらにカーシェアリングなどによって自家用自動車の総数と走行数を下げて、少しでも長く持続できる地球環境を保つための施策が欠かせません。

 ほぼ待ったなしの状況になりつつある、この「脱クルマ社会」への取り組みの姿勢や、具体的な道筋についてお伺いできれば幸いです。

 

 「脱クルマ社会」への取り組みに併せて、道路整備事業の柔軟な運用も肝要になってまいります。60年前に策定された都市計画は、その当時の社会的・政治的情勢を反映したものであり、現在の状況にそのまま当てはまるものではないことは明らかです。具体的に申せば上記の「脱クルマ社会」への取り組みを反映した形に変えてゆく必要があると思われます。

 例を挙げると、私たちの地元である下北沢周辺の再開発に絡んで何かと話題に上がる補助54号線です。60年前の計画時から大きく変貌した、現在の下北沢という街が置かれている唯一性を鑑みると、平常時の公共交通や災害時の緊急車両のための新しい道路としては片側1車線ずつで十分です。下北沢の街中に自動車を溢れさせることも、道幅の広い道路を作ってその両側に高層ビルを建てることも、私たち地元住民がこの街に求めていることではありません。一部の利害関係者やその後援者たちは異なる考えをお持ちかもしれませんが。

 補助54号線の道幅計画を拝見する限りでは、車道は片側1車線のみに抑えて、十分な広さを備えた歩道が確保されているようです。計画図からは詳細に読み取れませんでしたが、実際の現場図面にはさらに自転車専用レーンと植栽スペースが確保されていることでしょう。自動車のための道ではなく、これまでの下北沢の再開発の計画が実践してきたように、環境と人間に優しい道を作る方向性はこのように進めてゆくべきです。道を作りながら「脱クルマ社会」を推進する方向に持ってゆくのです。それくらいのことをせねば、もう地球はこれ以上持たないという危機感をもって臨むことが肝要です。

 補助54号線の現在に至る経緯の詳細と今後の見通し、そして道路計画においての「脱クルマ社会」へ向けた取り組みもお伺いできれば幸いです。

 

 車座集会を開いて直接区民との対話の場を持ち続けようとする保坂区長の姿勢は、とても大切なことだと存じます。区役所のスタッフの方々の、集会の実施に向けての多大なるご尽力にも深く御礼申し上げます。様々な区民の声が区長や区役所の方々の元に届きますように願っております。

 

 

 これだけ地球レベルでの環境意識が高まっている現在ではこのような話はかなり「今更」な気もするが、私が都市における自動車の弊害を懸念し始めた20年以上くらい前では、まだそれほど社会の中に浸透していなかったようにも感じたし、今でもその頃と大して意識が変わっていない人々も多数存在するように思われる。そうした想いもあったので、改めて文章に記してみた次第だ。回答を要請したので、どのようなお応えが返ってくるのか楽しみにしている。

 残念ながら私はこの方面のどの分野の専門家でもないし、かなり感覚的に書いているので議論の余地は多々あるのは私自身重々承知している。建設的な議論はむしろ歓迎したい。

 私の過去の日記をご覧になったことのある方はご存知のように、私自身は自動車が嫌いだ。だがそれ以上に、東京という大都市の中で生まれ育ち、日々の暮らしの中で肌で感じてきた実感の方が大きい気がする。20年以上も前の世紀の変わり目の頃に、東京の夏の気温が年々上昇してゆくのをみて、この「ヒートアイランド現象」が将来取り返しのつかないことになる前に対策が必要になるなあ、と漠然と思い始めたのが最初だったように思う。

 東京の夏の温度を押し上げている3つの大きな要因として、エアコンの室外機が発する大量の熱、自動車が発する熱と排出する排気ガス、そして東京湾の空気の流れを塞ぐ湾岸のタワーマンション群が挙げられていた。だが現実問題として、これだけ東京の夏が異常なほどに(20年前でさえ!)上がってしまうとエアコンなしでは人々は生きてゆけない。また建てられてしまったタワーマンションを今すぐ引き倒すこともできない。

 となると、(他の2つも長期的に対処してゆくことは重要だが)まず我々が手っ取り早く手をつけることができるのは、自動車の発する熱と排気ガスを減らすこと=東京にある自動車の数を減らすこと、それだけだ。例えば当時ヨーロッパのいくつかの都市で導入されていた自動車の総量規制。あるいは自家用車への課税を強化して集めた税金を、公共交通網の充実とサービス拡充に投入するなど。そういった施策を行使して東京のクルマの数をを減らしてゆくことしか、この街の「ヒートアイランド化」を少しでも遅らせることはできないのではないか。

 あの頃は漠然とそう思っていたし、より事態が地球規模で深刻化した今は、変わらないどころかむしろ同じ思いを強くするばかりである。その割には、飛行機ばかり責める声が大きく、データを見れば分かる通りに本当に重大なはずの自動車への追求はあまり聞こえてこないのが実に不思議だ。いわゆる「大人の事情」なのでしょうか? だとしたら、そんな手前勝手な「大人」とやらは、地球にとっては害にしかならないので、要りませんけどね(笑)。

 多くの人々にとって飛行機よりはるかに身近にある分、自動車を問題視する方が私たち一人一人の「自分ごと」として捉えやすいはずなのだが。

 

 

 参考までに、関連するサイトのリンクをいくつか貼っておきます。ご興味のある方はリンク先をご覧くださいませ。

 

www.mlit.go.jp

 

www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp

 

kuruma-toinaosu.org

・上の記事は、1995年から活動する市民団体「クルマ社会を問い直す会」によるものです。

(写真は全て2023年7月〜8月に、下北沢の各所にて撮影)