霧の城

ICO-霧の城-(下) (講談社文庫)ICO-霧の城-(上) (講談社文庫)
 宮部みゆき著「ICO −霧の城−」文庫版下巻を、病床にて読了。年末から年越しで読んでいた。以前からずーっと気になっていた小説だったが、文庫化でようやく手にして読む機会を得た。
 同名のゲームを原作とした(いかにもゲーム好きの宮部さんらしい)上下巻のけっこう長いファンタジー小説だったが、宮部さんの、相変わらずとても達者なキャラクター力とストーリーテリングのおかげで、とても面白く読めた。宮部さんのすごいところは、社会派ミステリ小説では社会派ミステリならではの、時代小説では時代小説なりの、そしてこのようなファンタジーやSF小説でもそれに見合った、ふさわしい語り口でそれぞれの小説を書いていらっしゃる、しかもそのすべてが「宮部みゆきの小説」になっていることだと思う。
 それにしてもこの物語の、そういう語り口の振幅の大きさはかなりのものだ。全体が四章に分かれているのだが、第1章はまるでジブリ映画に出てきそうな、ちょっと中央アジアを思わせる村でのいにしえのしきたりが語られたかと思うと、第2章(原作のゲームはここから始まるらしい)では古城を舞台にした、まさにアドベンチャーゲームをプレイしているような物語(私はこのゲームはプレイしたことはないが、かつて遊んだ「RIVEN」というゲームを思い出した)。
 第3章ではうって変わって過去に物語が遡り、華やかな宮廷に異形の剣士と強大な魔法使い、陰謀と武芸大会という「グイン・サーガ」さながらの本格ヒロイック・ファンタジーばりの物語。このように3つの章が全く性格の異なった語り口で、一つの物語を異なる側面から掘り下げていくのだ。最終章はそれら3つを統合しての大団円。見事というほかない。終わり方も余韻も実にいい。久しぶりに「小説の面白さ」を堪能したな。特に、この直前に読んだ「小説」が、某俳優の鳴り物入り?デビュー作だった後だったので、尚更でした(笑)。