「中国・美の十字路展」「Follow Me!」内覧会

 前回の「秘すれば花」「ストーリーテラーズ」展に続き、またもや内覧会の招待券を手に入れたので、明日から始まる「中国・美の十字路展」と「Follow Me! 新しい世紀の中国現代美術」の内覧会を観に、森美術館へ行ってきた。
 現代美術中心の森美術館が中国古代美術?と少々疑問だったが、(あとでカタログを見て知ったのだが)この展覧会はここを皮切りに全国を巡回することになっている。珍しく森単独の企画じゃないのだ。納得。森美術館もオープンして2年弱、そろそろ社会的立場や財政的理由などもろもろの理由で、このような(私の推測だが)"持ち込み企画"もこなす必要があるのだろう。と言っても、しっかり現代美術展の「Follow Me!」をくっつけてしまうあたり、さすがこの美術館らしいところだが。実現まで相当な駆け引きがあったのではないだろうか。ちなみに「Follow Me!」のほうは、森美術館の単独企画である(巡回はしない)。さらに、前回の「秘すれば花」「ストーリーテラーズ」展が会場を半分ずつ分け合っていたのに対して、今回の配分は、会場の4分の3が「中国・美の十字路展」で、「Follow Me!」は、残りわずか4分の1程度である。
 とは言うものの、この「中国・美の十字路展」、なかなかいい展覧会である。気に入った。広い会場なので詰め込みすぎずゆったりと展示してあり、会場の雰囲気の演出も落ち着いた感じでとてもよい。予定していたより遅く会場へ入っったために妻との待ち合わせまで時間があまりなく、かなり駆け足で見てまわったのだが、とても観やすくて好印象だった。
 展覧会は後漢が滅亡して唐が成立するまでの紀元3世紀から8世紀、三国時代から魏晋南北朝時代にかけての美術を紹介している。戦乱と群雄割拠の時代で、かつては文化が衰退した時代と思われていたが、実は東西文化の交流が盛んに行なわれた実り多き時代だった、というのがこの展覧会の趣旨であるようだ。確かに漢民族の文化はもとより、インドの仏教美術流入し、北方騎馬民族やペルシア、さらにはビザンチンやローマの文化や風俗が中国でミックスされていくさまを、展示作品から読み取るのは興味深い。でも私は中世ヨーロッパ美術専攻だったせいか中国の美術はあまり知識がないので、カタログをじっくり読んで、そういう視点でもう一度観に来ようと思う(幸いにしてタダ券もある)。(ちなみに現代美術と違い、古代〜中世の美術については、その作品の時代背景や美術史的な知識をあらかじめ持って作品を観ることは、有益なことだと私は思っている)
 そんなわけで今回は、会場で説明してある以上の予備知識を持たずに、(やや駆け足で)作品を観てまわったのだが、これが単純に観て楽しめるものが多かった。青銅や陶製などの人物や動物の人形が多く展示されていたが、その表情や踊ったり楽器を演奏するしぐさなどの素朴で愛らしいこと! 中には一角獣の人形もあって、一角獣好きの私はとても興奮したりした。装飾品や壺などの意匠も見ていて楽しい。作品から当時の人々の息吹が感じられるような気さえした。私が歴史好きなのもあって、すごく気に入った展覧会であった。もう一度来るときは、もっとじっくりと観ようと思う。
 「Follow Me!」のほうは、今最も注目を集めている中国現代美術ということで、こちらも期待していた。いかんせん点数が少ないのが残念であったが、写真やらヴィデオやらインスタレーションやら、さまざまな表現手段の作品を楽しく観てまわった。真っ赤な四角いリングの中をラジコンカーが走り回る(しかも観客が操作できる)作品が印象的だった。全体にまとまりはあまり感じないが、そのまとまりのなさが、かえってものすごい勢いで拡散しつつある中国の美術(と社会と経済)をよく感じられる気がした。
 会場の下のフロアでは、オープニングのレセプションが行なわれていた。妻との待ち合わせに急いでいたが、せっかくだから一杯だけ飲んでいった。ちょうどエリオット館長が挨拶をしているところだったが、「一方(の展覧会)が古くてもう一方が新しい、と単純に分けてはいけない。あの時代(3〜8世紀)の中国だって、速度はすごく遅いが、東西の文物の交流という意味では、インターネットの役割を果たしていたのだから」というようなことを言っていた。なるほど、物事はいろんな側面から見るべきだなと思った。
 なお、森美術館の次回、9月からの展覧会は、なんと杉本博司展! これは絶対観るっきゃない! 今からすっごーく楽しみである。