青空と海と山のはざまに

studio_unicorn20050819

 今日は仕事を休み、妻と葉山に行ってきた。というのも、一週間ほど前に、神奈川県立近代美術館・葉山館で開催されている「アンテスとカチーナ人形」展のお知らせを新聞かなにかで見た妻が、「これ観に行きたい」とねだったからだ。どうもかわいらしいカチーナ人形がいたく気に入ってしまったらしい。それに加えて「夏だから海を見たい」という気持ちも相当入っていたようである。私自身も、ミニマル建築好きとしては、2年前に出来たばかりの葉山館はぜひ見てみたいと常々思っていたし、確かに夏の海はすごく好きだ。実際に海水浴をするとかではなくて、“夏の海”というものが呼び起こすいろいろな雰囲気とか感情とかがたまらなく好きなのだ。
 電車を乗り継いで逗子へ、逗子からバスに乗って葉山へ。家を出てから約2時間で美術館に到着。小旅行だ。ゆえにこの日記は「旅」にカテゴリーするに値する。すっきりと晴れ渡り、湿度が低く風が吹いているので比較的しのぎやすい。出かけるには絶好の日だ。
 美術館の建物は、予想以上の素晴らしさ。白を基調にシンプル&ミニマルなデザイン、開放的なガラス窓から陽光がふりそそぐ。通路のひさしなどにすりガラスを多用しているのも好印象。抜けるような青空をバックに、白い建物が見事なコントラストをなしていて素晴らしい(写真)。館内にはアンビエントな音楽がかすかに聴こえる。海に面しているので、テラスからは葉山の海の素敵な眺望が見渡せる。振り返れば小高い山だ。なんというロケーション。青空と海と山のはざまで、どこか日常からかけ離れた世界がここにある。日常を抜け出してアートの海に潜ってゆくには、最高の場所だ。この建物を見に来るだけでわざわざ葉山まで来た価値があったというものだ。一日いても飽きないかもしれない。この辺に住んでいる人がうらやましい。
 さて、ここで開催されている「アンテスとカチーナ人形」展だが、ドイツのアーティスト、ホルスト・アンテスHorst Antesの絵画を中心とした作品の展示と、彼が蒐集してきたたくさんのカチーナ人形の展示の2部構成になっている、ちょっと変わった展覧会である。カチーナ人形とは、北米ネイティブ・アメリカンの信仰する精霊カチーナを木彫りの人形に表現したものである。ここに来るまでは、私たちはなぜか南米のネイティブ・アメリカンのことだと思い込んでいた。多分アーティストの名前「アンテス」がアンデスを連想させたからだろう(笑)。
 展示されているカチーナ人形は、どれも大変素朴で、とても面白い。森羅万象すべてがそれぞれ別の、さまざまなカチーナとして表現されるので、種類が大変多いらしい。一つ一つの人形がとても個性があって、その素朴で色彩溢れる、いかにも"エスニックアート"という感じの表現が、観るものを和ませてくれる。中にはほとんどマンガチックに表現されている人形もあって(作ったほうはもちろん大真面目なのだろうが)、思わず笑ってしまう。
 アンテス自身の作品は、モアイのような顔の人物や、蛇やスプーンなどの特定のモチーフが、執拗なまでに繰り返して現れる、表現的な作品が多かった。同じ顔の人物やイメージを繰り返し登場させるという意味では、同じドイツ(オーストリアだったかも)の画家ルドルフ・ハウズナーRudolf Hausnerを思い起こさせた。私はシンプルな家をモチーフにした作品が気に入った。
 この展覧会のカタログの装丁がまた面白い。カチーナ人形の冊子とアンテス作品の冊子が観音開きの表紙の左右にそれぞれ綴じられて、一冊のカタログを形成しているのだ。装丁好きの私は、もちろん買いました。
 別の展示室では、同時開催の「吉村弘の世界」展が行なわれていたが、これがまた思わぬ収穫だった。環境音楽の草分け(環境音楽好きの私だが全然知らなかった)でサウンド・オブジェの創り手、パフォーマンスから映像、写真など幅広く活動したアーティストだそうだ。実はこの美術館のサウンド・ロゴも彼の手になるものとのこと。館内で流れているのを聴いたが、すっごく私の好み。これこそ私の求めている環境音楽だ(ちょっと大げさ)。さっそくCDを売店で購入した。神奈川県立近代美術館の葉山・鎌倉それぞれのサウンド・ロゴ各2曲を収録したCD"Four Post Cards"である(残念ながらAmazon.co.jpでの取り扱いなし。下記Crescentレーベルのホームページで詳細を見ることができます)。この他にも、持ち上げて傾けると壜から水を注ぐようなコポコポという音がするサウンド・チューブがとても気に入った。
 建物と展覧会を心ゆくまで堪能したあとは、昼食にミュージアムレストランでスパゲッティを食べた。席から葉山の海の素晴らしい眺望が見えるのはとてもよいのだが、値段がちょっと高めなのと、料理の盛り付け方がやや雑だったのが残念だった。これだけの美術館なのだから、こういう細かいところでの配慮ももっと必要だと思う。