現代美術館にて

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 昨日は平熱まで下がった私の妻だが、今日はまた微熱気味。せっかくの週末だから一緒に出かけたいところだが、風が強くとても寒いので、外出は控えさせる。きちんと治るまでは仕方ないな。ゆっくり静養してもらわねば。
 というわけで、午後ひとりで外出。今日は、PASMOSUICAの相互サービス開始日。記念の限定カード(SUICAペンギンPASMOロボットの両方の絵柄が入っているレアカード)が、もしまだ売られていたら買おうと思って、渋谷駅で訊いてみたが、とっくに売り切れたとのこと。なんと、販売開始後数時間であっという間に完売したらしい。残念。まあ、もう売り切れたのなら、別にいいや。ヤフオクとかで大量に出品されていたりして(笑)。
 気を取り直して、地下鉄に揺られて木場へ。東京都現代美術館を訪れる。現美に来るのも昨年の6月以来だから、実に久しぶりだ。気になる企画展が開催中だったので、ちょうどいい機会だ。
 窓口で訊いてみると、企画展「中村宏 図画事件」と「MOTアニュアル2007 等身大の約束」そして常設展示(MOTコレクション)の3つが観られる、お得なセット券があるという。せっかく、はるばる木場くんだりまで来たのだから(笑)、全部観てやろうと思い、躊躇わずセット券を購入。展覧会3つで1,500円は確かに安いかな。しかしこの時点ですでに3時を過ぎている。閉館まで3時間もない。なんとか3つとも観てやろうと、少々急ぎながらの鑑賞になってしまった。
 感想は「もっと早く来てじっくり観たかった」。いや、量的なものもあるのですが、質的にも満足でした。
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 まず、大きい企画展「中村宏 図画事件」。1950年代の政治色の強い「ルポルタージュ絵画」から60~70年代のファンタジックな絵画、そして近年の機械への偏愛にみちた作品から、70歳を超えてますます創作意欲に満ちた作品群まで、ひとりの画家が作風を変えつつ辿ってきた軌跡が、一堂に展示されている。
 私個人としては、初期の、いかにも「労働者蜂起!」的なルポルタージュ絵画や、荒々しくグロテスクな絵画群は正直あんまり惹かれなかった。しかし、その後の、セーラー服を着た一つ目の女子学生に代表されるような、フェティッシュなエロティシズムとグロテスクな要素に満ちた異世界のような絵画群は、この頃にさかんに手がけたグラフィック関係の仕事の成果とともに、あやしくも危険な魅力がたっぷり感じられ、大いに楽しんだ。小さい頃、父親が毎号取っていた(今でも定期購読している)「芸術新潮」(この頃は「藝術新潮」だったなあ)の中に、この頃の中村宏さんのアヤシイ絵画が載っていて、子供心に強烈な印象を焼き付けられたことがあったのを、懐かしく思い出す。
 さらに中村宏さんという人は、その半生を通じて動力機関や乗り物に魅せられていたようで、すべての時代の作品にも機械、特に機関車・鉄道と航空機への偏愛ぶりがにじみ出ている。私が好きな中期の絵画でも、一つ目の女子学生たちが列車に乗っていたりするし。
 そして、最近の作品群が面白い。黄色と黒の縞模様=「立入禁止」をモチーフに、ついに平面からあふれ出て、床に縞模様の材木が積み上げられてインスタレーションの様相を呈したり、逆に絵筆のテクニックを駆使して、平面なのにキャンバスの上に無数の糸が張ってあるように見せかけた作品を作ったり。老いてますます自由にその発想が羽ばたいてきたということだろうか。
 図録を購入しようかどうしようか迷ったのだが、凝った装丁があまりに素晴らしかったので、根負けして(笑)購入。
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 続いて、小さい企画展「MOTアニュアル2007 等身大の約束」。タイトルどおり、「等身大の視点」から作品作りをしている中堅作家5人、

の作品が紹介されている。
 どの作家の作品も個性やアイディアがあって面白かった(加藤泉さんの作品だけは生理的にちょっとダメだった)が、特に興味を抱いたのはしばたゆりさんと中山ダイスケさんの作品。しばたさんの作品は、とにかく"自己"とそれにまつわる"もの"たちの痕跡を残そうと執拗に(?)そういう作品を作り続ける姿勢が、ちょっと怖いくらいに面白い。中山さんの作品のほうは一見可愛らしくて牧歌的にすら見える作品が、よく見ると不気味な仕掛けがしてあって、思わずこの現代の我々のコミュニケーションの空虚さについて考えさせられてしまう。このお二人の作品は、特に必見だなと思った。
 そして、最後に常設展示。ここの常設展示は初めて観たのだが、なかなかいいではないですか。完全に流し観するつもりだったのだが、大好きなアンゼルム・キーファーAnselm Kieferの巨大作品に出くわして、長いことじっくりと見てしまった。絵の具とともに大量の砂がぶちまけられた絵画「イカルス〜辺境の砂」。やっぱりキーファーはいいなあ。この人の作品には、独特のテクスチャー感があって本当に好きだ。
 そして、常設展示内の特集展示「闇の中で in the darkness」がまた、とても良かった。版画の駒井哲郎さんや、デジタル・アートの宮島達男さん(収蔵品ではなく特別出品だそうだ)、クリスチャン・ポルタンスキーの怖い怖い作品など、よく知っている作家の作品が多かったこともあるが、伊藤公象さんの、不思議な物体が床一面にぶちまけられた作品など、収蔵品をうまくテーマに沿って選んで見せているなと思わせる作品が多くてgood。気に入った作品が多くてとても楽しめた。ちょっと見直したぞ、現美(笑)。また展示替えをしたら、常設展示を観に来ようかな。