ヤーンの導くままに

studio_unicorn20090527

 今日は、このことについて書かないわけにはいかない。

 享年56歳。なんとも若すぎる幕引き。結局「グイン・サーガ」は126巻で未完になってしまったのか。運命神ヤーンは100巻少々を書く時間しか与えてくれなかったようだ。
 たまたま先週この日記に「グイン・サーガ」のことを書いたばかり(5月18日の日記参照)だったので、10日もたたずにこの訃報とは、なんとも奇妙な偶然だ。そのアニメ版の試写会のときの写真(下のリンク先の写真)を見ると、確かにかなり痩せてしまっていて、今見るとただならぬものを感じてしまう。

GUIN SAGA豹頭の仮面―グイン・サーガ(1) (ハヤカワ文庫JA)
 正直言って先日けっこうじっくりと書いたとおり、ここ数年は「グイン」も読むに耐えなくなって止めてしまっていたし、他の仕事も魅力に乏しく感じられて読んでいなかったが、14歳のときに「豹頭の仮面」を読んで以来、中学高校大学英国留学そして社会人になってからも、ここ数年こそご無沙汰だったものの、足掛け30年近くも「グイン・サーガ」や他の栗本さんの作品とともに私は歩んできた。うん、全てではないにしても「青春」のひとつだったのは間違いない。「物語」の持つ力、面白さを初めて本格的に知ったのは「グイン・サーガ」のおかげだし、「魑魅魍魎」「突兀」「蛇蝎」などの漢字を読める&分かるようになったのも「グイン」のおかげだ。その恩恵は計り知れない。心よりご冥福をお祈りします。本当にありがとうございました。
 それにしても、いつの頃からか、「この物語は作者が一生かけても完結しないんじゃないか」と薄々思っていたのも事実だ。多分100巻では完結しそうにない、ということが分かってきた頃か。そして、この展開だと200巻だって完結しないだろう、とも。しかしそれと同時に、「物語を書き続けている間は、作者は死なない」とも思っていたのも事実だ。
 そして、今思う。栗本さんは「グイン」を「終わらせるつもりがなかったのではないか」と。書き続けて書き続けて、完結することなく永遠に続き続けてゆくことを夢見ていたのではないか。「優れた物語は終わりのないもの」という名言を残した栗本さんのことである。密かに(でもないか?)そう思っていても全然不思議ではない。多分、それこそ何百年も生き続けたとしても(栗本さんも我々も)、クオリティ云々は別にして、この物語の完結を見ることはできなかったのではないか。そうとさえ思えてしまう。
 それにしても、早川書房としては「グイン・サーガ」がドル箱のひとつだっただけに、これからかなりツライところだろう。もしかしたら、「後継者」選びが始まってくるのかもしれない。誰が書くにしてもものすごい賛否の嵐になるだろうが、夫君は「SFマガジン」の元編集長だし、古巣のためならということもありえるか。ただ誰が書くにしても今後の取っ掛かりが欲しいだろうが、作者に訊く訳にいかないしねえ。いっそのこと霊媒師に依頼するとか? でも、仮に霊媒に成功したとしても、残りの話を概略で伝えるなんてとてもできなくて、滔々と物語を語り続けてしまいそうな予感が。そうなると霊媒師の一生を使っても終わるかどうか(笑)。
 確かに、類まれな物語作家であったのは間違いない、ということだ。改めて、ご冥福をお祈りします。

(写真の夕景は、5月23日に渋谷にて撮影)