栄一巡りは続く

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 渋沢栄一の生涯を描くNHK大河ドラマ「青天を衝け」が昨年末に最終回を迎えてから、丸3か月が経った。私たちが最終回の録画を観たのは年が改まってからの1月5日だったが、それから数えても早3か月近い。

 ではあるが、2022年1月5日の日記に書いた通りに、むしろ最終回を観て以降の方が私の「栄一熱」は高まったので、私たち夫婦の「栄一巡り」はそこからスタートしたと言っていい。

 ということで、この3か月で、渋沢栄一に関連した本をずいぶん読み漁った。もともとかなり遅い私の読書スピードが、このところ更にゆっくりになってしまってもどかしいが、それでもずいぶん読んだぞ(笑)。この辺りで軽く総括しておこうと、ここにまとめておくことにする。

 まずは、何をおいてもコレ。『論語と算盤』。

 

 手っ取り早くお手軽に内容を知りたかった私は、この読みやすい現代語訳版にて読了。現代の視点からすると当たり前に思えたことが、当時はまだ全く当たり前でなかったこともあり、栄一の論じている内容が今更に感じてしまうことも正直、なくはなかった。それでも、これほどに苦難にまみれた世情の中で、資本主義のそもそもの原点はなんだったのかを振り返る時、ここで栄一が主張する「心のこもった経済活動こそが肝要」がいかに大切であるかを、改めてしみじみと噛みしめることになるのだ。

 そして、東京から日帰りできる距離であっても、なかなか「旅」をする状況にないので、とりあえず本の上で、写真と文章による案内にて栄一の故郷・埼玉県深谷市の血洗島を訪れる気分に浸ってみた。

 

 カラー写真多数掲載。お世辞でなく、実際に血洗島を訪問したような気分になった。なかなかいい一冊です。

 そして、「青天を衝け」の脚本を基にしたノベライズ小説版、全4巻を読破。

 

 中学生高校生だった頃は洋画のノベライズ本をずいぶん読み漁った私だが、最近のテレビドラマのノベライズ小説本を読むのはこれが初めて。大森美香さんによる脚本を過剰に飾りたてることなく豊田美加さんが小説仕立てにした、という感じか。明らかにテレビドラマを既に観た人向けの内容で、読みながらドラマの記憶を頭の中でリフレインしつつ、最終形で削除された場面を読むことでドラマを補完する、という感じが私が求めていたのとぴったり。全41話分をたっぷり楽しみ、ドラマをもう一度、より深い理解をもって(文字によって)辿り直すことができた。

 そうそう、栄一の事績という趣旨から少々外れるが、合間にこんな本も読了。

 

 現役のギャラリーオーナーと会計士の対談本。アートと会計学という、一見異色の組み合わせに見えて、実は非常に関係が深い二つの分野が交差して、実に興味深い逸話が満載。この中にも渋沢栄一が重要なキーパーソンとして言及されている。というか、むしろ本の中に栄一の名前を見つけたので、この本を読んでみようという気になったのだよね。

 ところで、私が渋沢栄一と「青天を衝け」について書いた過去のブログを見て、私の旧友がご自身のパートナーである産業カウンセラー・安藤雅旺さんの著書『論語営業のすすめ』をご恵送くださった。どうもありがとうございます。

 

 安藤さんはご自身の仕事上の指針として、渋沢栄一の言動と彼が経済活動倫理の拠り所とした「論語」をたいへん重視しておられ、営業活動を通して自己の人間性を高めることを旨となさっている。まさに『論語と算盤』を地で行くが如し。このご著書を一読すると、やはりその知行合一精神に満ちた真摯な「シゴト哲学」が随所によく窺われて清々しい。

 さて、一連の「栄一巡り」の締めくくりとして今私が読んでいるのが、須田努著『幕末社会』(岩波新書)。

 

 栄一が青春時代を過ごし、農家の出身で商才を発揮し尊王攘夷活動から幕臣へと激動の転身を経験した、幕末の時代。ドラマを観て、この時代の日本の社会や庶民の暮らしぶりがどのようなものであったのか知りたい、と思っていた。そこにこの本が新刊として出たので、渡りに船。さっそく手に入れて読んでいるところだ。幕府による支配体制が揺らぐこの世情不安な時代に、当時の庶民、在地社会にはたくさんの「栄一たち」がそれぞれに悪戦苦闘しながら「自分探し」をしていた様子が、実によく理解できる。いい本に巡り合ったものだ。読了した暁には、またこの本について書きたい。

 栄一ゆかりの地巡りのほうは、1月に栄一が晩年まで居住した邸宅があった東京・北区の飛鳥山を訪れたが(2022年1月16日の日記参照)、つい先日の3月24日に日本橋兜町を訪れて、栄一が設立した日本最初の銀行・第一国立銀行の跡地を見てきた。

 

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 ここには現在みずほ銀行兜町支店があるが、その建物の壁面に「銀行発祥の地」を記念するプレートが貼られている(上の写真)。

 さらに、現在までの建物の変遷を示すパネルも掲示してあった(下の写真)。

 

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 この近くには、栄一が一時居住していた邸宅の跡地も。邸宅自体は関東大震災による火災で焼失してしまい現存しないが、跡地には現在「日証館」と呼ばれる昭和3年(1928年)建造のクラシカルなビルが建っている(冒頭の写真)。

 ビルの1階には、昨年11月にオープンしたばかりのチョコレートとアイスクリームのお店「teal」があり、シックな内装の店内で宝石のようなスイーツにめぐり合うことができる。

 

tealtokyo.stores.jp

 

 日証館もなかなかレトロで風情のあるビルなので目を楽しませてくれるのだが、やはりヴェネチアゴシック様式で建てられたという栄一の邸宅を、実際に見てみたかったなあ。つくづく震災で焼失してしまったのを残念に思う。

 

 

 この写真は、上掲したみずほ銀行兜町支店に貼られたパネルの一部に近づいて撮ったものだが、この地に建っていた栄一の邸宅の、在りし日の姿とのこと。

 比較のために、ヴェネツィアン・ゴシックの代表的建築カ・ドーロ"Ca' d'Oro"の写真(2019年6月22日撮影)を挙げてみる。私が実際にヴェネツィアを旅行した時に、大運河の中を運行するヴァポレットの上から撮影したものだ。

 

 

 本場のこれと比べても、栄一の邸宅は様式的になかなか遜色のない仕上がりに見えるのだが、いかがであろうか。明治期のあの時代に、このようにエレガントな建築様式を自邸に選ぶあたり、もしかしたら栄一の審美眼はなかなかのものだったのかもしれない。

 あと残すは、栄一の故郷・血洗島の訪問か? もう少し世情が落ち着いたら、ぜひ実現してみたいものだ。

 私たちの栄一巡りは、まだまだ続く。