真珠と一角獣

真珠の耳飾りの少女 豪華プレミアム限定版 [DVD] 真珠の耳飾りの少女 (白水Uブックス)
 トレイシー・シュヴァリエTracy Chevalier著「真珠の耳飾りの少女」についてYaeさまからコメントをいただいた(2006年3月25日の日記のコメント欄参照)ので、返信がてら少々書いてみる。
 「真珠の耳飾りの少女」は、私は小説のほうは未読だが、私の父親がかなり熱心なフェルメールのファンなので、訊いてみたら当然のように「読んだ」と言っていた。しかし、映画はDVDで観た。未見の映画のDVDはめったに買わない(ハズレだと損した気分になるので)私だが、妻が面白いと言っていた(いつぞやのヨーロッパ旅行の飛行機の中で、ぐうぐう寝ている私の横で機内上映を見ていたそうだ)のと、特別仕様のビロードのボックスがとても素敵で、例によって装丁・デザイン好きな私の物欲を刺激してしまったのだった。
 フェルメールVermeerの絵をモチーフにした作品というよりは、作家が史実・史料を元に想像力を膨らませ、有名な絵「真珠の耳飾の少女青いターバンの少女)」のモデルの少女は誰かという問いにひとつの答えを出すために書いた小説なのである。17世紀のオランダ・デルフトを舞台に、この絵が描かれるまでに起こった(かもしれない)、画家フェルメールと使用人の少女との間の、非常に微妙なロマンスの物語。ということで一応フィクションです。でもこの絵を眺めていると、本当にそんな物語が秘められていてもおかしくないな、と思ってしまうほどだが。
 映画のほうも大変に素晴らしく、17世紀のオランダの描写や雰囲気がとてもよく出ていて、史劇として観ても実にいい。まだ可憐なスカーレット・ヨハンソンフェルメール役のコリン・ファースの演技もとても良かった。家族を養うために絵を描かなければいけないフェルメールの、何というか「芸術家の悲哀」みたいなものも同情(?)を誘ったし、この当時の画家が仕事を請け負ってから作品を制作してゆく過程が、丹念に描かれているのも興味深かった。この映画はオススメです>Yaeさま。そういえば小説が未読だったな。今度父親から借りるとしよう。
貴婦人と一角獣
 「真珠の耳飾りの少女」の原作は未読ながら、同じ作者による「貴婦人と一角獣」(私のレビューあり)は読んだことがある。これも「真珠の耳飾りの少女」と同じく、パリの中世博物館(旧クリュニー美術館)に所蔵されている有名な6枚組のタペストリー「貴婦人と一角獣」"Lady with the Unicorn"をとり上げ、この謎の多いタペストリーがどのようにして作られたか、その背景にあった(と思われる)ロマンスの物語を、資料を基に豊富な想像力で書き上げている小説である。
 これは面白い! 手放しでオススメします>Yaeさま。もともと私はこのタペストリーが大好きで、大学の卒業論文に登場させ、これまでに4回も現物を見たほど(要するにパリを訪れるたびに必ず観に行っている)。それだけでも大いに興味を持って読んだのだが、生き生きとした登場人物やタペストリーの制作過程が本当に興味深く、最後まで面白く読んだ。詳しくは私のホームページのレビューをご覧ください。こっちも映画化しないかなあ。
 シュヴァリエアメリカ人で、豊かな想像力と達者な筆力を持った、物語を小難しくなく面白く描き出す才能を持った作家のようである。機会があれば、他にも読んでみたいものだ。

  • Tracy Chevalier, official siteシュヴァリエさんのオフィシャルサイト。英語のみ。経歴や作品の紹介だけでなく、作品の歴史的な背景や雑学的な知識など盛りだくさんの内容。充実したサイトです)