"if"の物語

studio_unicorn20080415

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)
 英国の小説家クリストファー・プリースト氏Christopher Priestの長大な小説「双生児」"The Separation"を、本日読了。映画化された「奇術師」"The Prestige"が有名な小説家だが、私がこの人の作品を読んだのは、これが初めてだった。
 SF/ファンタジィ/ミステリなどの手法を縦横無尽に使い、第二次世界大戦に翻弄された双生児の運命が、いくつもの分岐点で分岐してゆくいくつもの歴史の中で語られる。重層的で複合的・幻想的な"if"の物語。巧妙に張られた伏線(あるいは伏線らしきもの)がいくつもの仕掛けを施し、読者を、何が正しいのか&何が本当なのか分からない複雑な迷宮へ導いてゆく。そして、冒頭の"ねじれ"を結末で露呈させ、冒頭へとリンクする。
 さまざまな解釈が可能な、一筋縄では行かない小説。曖昧な要素をいくつも残したまま結末を迎えるので、一義的な分かりやすい物語しか理解できない人には疑問だらけで終わってしまうだろうが、ものごとは白黒きっちりつけられないことのほうが圧倒的に多いものだ。私にとっては非常に面白く、物語の醍醐味を充分に味わいながら読むことができて、とても楽しかった。小説って、こんなこともできるんだ、という発見の喜び。こういう読み応えのある"物語"を、もっとたくさん読みたいものだ。なお、巻末の、大森望さんの解説が、この物語の"攻略法"まで言及していて秀逸でした。

(写真は高原のペンションにて……ではなく、4月12日に外苑前〜表参道界隈にて撮影。こんなのどかな空き地が裏通りにありました)