父と子、そして。

studio_unicorn20080711

帝王の殻 (ハヤカワ文庫JA)
 神林長平さんの小説「帝王の殻」を、本日読了。
 4月に読んだ「あなたの魂に安らぎあれ」に続く、「火星三部作」の第2作とのこと。「あなたの〜」からの直接の続編というわけではないが(むしろ時間的な順序はこちらが先)、同じ世界の中での2つの物語、ということで共通した設定や登場人物が現れてきたりする。
 物語世界そのものにものすごい仕掛けがあった「あなたの〜」に比べると、この「帝王の殻」のほうがよりストレートな物語運びで、私としてはこちらのほうが面白く読めた。ラストは少々物足りなくはなかったが、けっこうぐいぐいと読み進めてしまった。章の途中で、すっと話の視点が別の人物に移るのも、意外とありそうでない叙述法だ。斬新に感じた。
 話の鍵は「父と子」。さまざまな関係の父親と息子の組み合わせが登場し、それぞれの葛藤が描かれる。内面の葛藤を世界のあり方そのものに拡げてゆけること、これぞSFの醍醐味、か。
 秀逸なのが、火星人が必ず連れている"もうひとつの自分"であるPABの存在だ。こういう「自己の分身」のような設定ですぐ連想されるのが、「ライラの冒険」シリーズに登場するダイモン。あちらが動物の姿をした守護精霊のようなもの、というファンタジィの文脈で描かれていたのに対し、このPABは知性を持った機械だというのがSFらしい。両者とも、その存在そのものが物語の根幹と深く関わってくる、というのも共通している。
 さて、「火星三部作」はあと一作、ものすごく長大な「膚の下」(はだえのした)がある。こちらも近々(今年中くらいに?)読みたいものだ。
(写真は7月5日、六本木ヒルズにて撮影)